第63話


<Chapter.20−3 グランドマスター>


〜辻希美〜

「おらぁっ!!」
「うっ!」

突き出された拳に、槍を横にして合わせ、なんとか防御する。
メタルフィストと槍が作り出す金属音が、戦場の轟音にかき消される。
そのまま身体が半回転し、今度は長い脚が突き出される。
今度も槍で防御するが、今度は完全には勢いを防ぎきれず、身体が後ずさった。


「ふぅ……」

チラッとあいぼんのほうを見る。
あいぼんは城内へと戻ってきた敵兵を魔法で蹴散らしている。
完全にあいぼんが圧倒してるから助ける必要はないだろうけど、敵の数が多いため助けを
期待することもできないだろう。
てことはとりあえず、現状では目の前の里田さんと1対1で戦わないといけないのであって。


「ハッ!!」

短い呼吸とともに手にした槍を突き出す。
負けられない。
私たちが負ければ、中に入っていった安倍さんたちが挟み打ちに合うことになる。
敵陣突入の際の後衛の役割っていうのは、後から続く敵を通せんぼすることって、
確か矢口さんに習った。
ここは絶対に通せない。

一撃目の突きはかわされた。
さらに続けて突きを繰り出すけど、今度は脇で挟んで止められる。
それと同時に上向きの力がかかり、身体がふわっと宙に浮いた。

「わわっ!?」

落とされる!
そう思ったとき、迷わず槍を手放して、地面に着地する。


「へぇ、ずいぶんと簡単に武器を捨てたねぇ」

里田さんが槍を弄びながら微笑む。

「それで、武器無しでどうするの?」
「……こうするんれすよ!」
「えっ?」

地面を後ろに蹴る。
そして放たれた矢のように里田さんへと向かっていく。
肘を突き出し、そのまま里田さんの懐へ突撃する。

「ぐっ……」

呼吸のつぶれた呻き声が頭上から聞こえた。
槍を手にしている腕を蹴り上げる。
衝撃で槍が手の中から弾け飛び、宙に放たれる。
渾身の力を右拳に込め、さらに胴体にもう一撃狙って突き出す。

「くぅ……!」

手に衝撃が伝わると同時に里田さんの身体がずずずっと後ずさる。
最後の一撃はガードされたが、前の二撃は確実に入った。
槍がくるくると回って、私の手の中に戻ってくる。


「へぇ、驚いた。格闘技もできるんだ。しかもかなりのパワーだし」
「ちょっとだけれすけどね。力は生まれつきれす」
「なるほど、ますます楽しませてくれるね」

里田さんはトントン、とブーツのつま先で地を叩く。
二撃確実に入ったにもかかわらず、そんなにダメージは感じられない。
どうやらインパクトの瞬間に、うまく衝撃を散らせたらしい。
と、その里田さんの身体が一瞬にして消えた。

「えっ!?」

次の瞬間には目の前に里田さんの顔が現れた。
口許が楽しそうに、半月型に曲がっている。

「でもさ、速さは私のほうが上かな?」

ヒュン、っと音がして拳が繰り出される。
なんとか槍で払うも、その時には左の拳が迫っていた。
時には同時、時には時間差で襲いかかってくる左右の拳。
防御に徹していると、その防御をかいくぐった腕が私の襟首を掴んだ。

「うわっ!!」

直後に世界がぐるっと回った。
地面に背中から叩きつけられる。
なんとか受け身をとったけど、さすがにすぐには起きあがれなかった。

「うわ〜、軽いねぇ。うらやましいよ。あっ、でも身長から考えると重い方かな?」
「うっさいれす!」

槍を構え直すけど、そのころには里田さんが懐に潜り込んでいた。
くっ……。こんな近接戦じゃ槍のような広い間合いの武器は使えない……。
戦闘スタイルを変える。
槍は完全に盾代わりにし、私も格闘技で応戦する。

突き出される拳を槍で受けとめる。
即座に繰り出される回し蹴り。
リーチが長い。かわせない。
なんとか腕でカードする。

リーチと速さは負けてる。
なら私が勝ってるのは?
一つはこの力。そしてもう一つは……


「ほらほら、反撃しないの?」

雨のように降り注ぐ攻撃をガードしていく。
右フックを槍でガードするが、次の瞬間槍が蹴り上げられた。

「しまった!」
「ガードしすぎもよくないんだよ!」

がら空きになった腹部に膝蹴りがめり込む。
肺が押しつぶされて呼吸が止まる。

「とどめっ!!」

メタルフィストがはめられた拳が、体勢を崩した私に襲いかかってくる。
ヤバイ……ガードが間に合わない……。
でもその時、里田さんの背中で爆炎が上がった。

「なっ!? だれっ!?」

私にはわかった。

「のの、お待たせ! こっちはほとんど片づいたわ!!」
「あいぼん!!」

あいぼんの手からまた火球が放たれる。
里田さんはなんとかかわすが、その隙にあいぼんが私の側までやってくる。


「チッ! まぁいいや、一人増えたくらい。私がまとめて倒してあげるわ!」
「そう簡単にはいかないれすよ!」

チラッとあいぼんのほうを見る。
あいぼんも私のほうを見たようで、目があった。
それだけで全て理解できる。
私は地を蹴った。


あいぼんとのコンビネーションは誰にも負けない。
二人一緒なら、その力は何倍にも跳ね上がる。

「はあぁあっ!!」
「おらあぁっ!!」

里田さんも同じように疾走する。
私も真正面から向かっていく。
でもぶつかる直前、目の前に爆炎が上がった。

「なっ!?」

炎と煙の向こうから、里田さんの驚いた声が聞こえる。
でも私は驚かない。
そのまま炎に向かって槍を突き出す。

「くっ!」

微かな手応え。
これは掠っただけかもしれない。
私は迷わず目の前の炎の壁に突っこんだ。

炎を突き抜けると、そこには里田さんの驚愕に見開いた顔が広がる。
左の拳を突き出す。
顔の前に出した両腕にガードされたが、次は右手に持った槍を棍のように扱い、脇腹を払う。

「がはっ!」

ガードが間に合わずクリーンヒット。
顔を歪めながらも里田さんは拳を振り上げるが、その拳に電撃が突き刺さった。

「つっ!!」

加えて足下の地面が陥没し、体勢を崩す。
その身体にタックルをくらわせ、里田さんを吹き飛ばした。


「チッ、うざったい!」

里田さんの視線がキッとあいぼんの方を向く。
その一時後には里田さんの身体が起きあがり、疾走していた。

「あいぼんっ!!」
「ののっ!!」

私も里田さんのあとを追う。
目の前で爆発が起こり、土や礫が舞い上がる。
里田さんのスピードが落ちた。
その隙に私はあいぼんと場所を入れ替わる。

「はあっ!!」

繰り出された拳を避けて、腕を掴む。
里田さんが向かってきた勢いをそのまま乗せて、身体を丸め、掴んだ腕を思い切り引っ張る。

「お返しれす!!」

里田さんの身体がふわっと浮く。
そのまま地面に叩きつけた。

「がはっ……」
「お見事! ののっ!!」
「あいぼんが引きつけてくれたおかげれす!」

もはや決まったように、パチンと手のひらを合わせる。
でも勝利の余韻に浸る暇はなかった。
投げ飛ばした里田さんがむくっと起きあがった。

「なっ!?」
「くっ……残念ね、まだ、戦えるよ!」
「しつこいれすねぇ!!」

槍を構え直す。
でもその時、私たちのあいだを凍てついた風が吹き抜けた。
そして足下に蒼い魔法陣が浮かび上がる。

「えっ!?」
「なっ!? これはっ!?」

魔法陣は城の周りを完全に囲むほど大きい。
いや、もしかしたらこの王都を飲み込むほど大きいのかもしれない。
里田さんも驚愕の表情で魔法陣を見ているとこを見ると、ロマンス王国側にもまったく
予期せぬ展開なのだろうか?


でもこの魔法……私、知ってる……。
確か、あの時紺ちゃんが……

魔法陣が蒼く輝く。
その瞬間、世界が凍り付いた。







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