第62話


<Chapter.20−2 グランドマスター>


「フフッ……」

アヤカが斧を地に降ろし、柄から手を離した。
そこにはダークブラウンに光る小さな魔法陣が刻まれていた。

「グラビティスタンプって言うんですよ。この印が刻まれた物の重さを自由自在に操れます。
0.1sから数トンまで。ま、この斧はこれ以上重くする必要はありませんけどね」

アヤカはまた斧を持ち上げ、ヒュンヒュンと片手で振り回して見せた。
そのくせその手をパッと離すと、斧はズンッと地面に沈み込む。

「But それを見抜いても、対処法がなければどうしようもありませんね?」

くっ……確かにその通りだ……。
重力を操れる以上、ナイフ投げは絶対届かない。
ならあとは魔法で戦うしかないが、地属性を極めたグランドマスターにはたしてどこまで通用するか……。


「もう諦めなさい、あなたに勝ち目はないわ!!」

地面から斧を引き抜き、アヤカが向かってくる。
今度は真横に振り抜かれる斧。
なんとか後退して切っ先をやり過ごす。

最初は軽くても攻撃の瞬間は威力を上げるため、ある程度までは重さを上げているはず。
だからやっぱり……攻撃をしたあとの一瞬は確実に斧に振られて隙ができてる!
この隙は逃さない! ナイフを握って懐に飛び込む。

「なっ……?」

斧をもどしてる時間はない。
握っているナイフに電撃を込める。
終わりだ!!


「……なぁんてね」
「!?」

突然ナイフを握った腕に衝撃。
ナイフが手から離れ、宙を舞った。

「重くできるのは斧だけではないんですよ?」

まさか自分の拳を!?
考えてる時間もなく、アヤカの拳が襲ってくる。
ガードするが防ぎきれない!
吹き飛ばされてまた壁に激突する。


「かはっ!」
「悪いですけど、接近戦はお手の物です。格闘技だってまいちゃんにしっかりと習ってますから」

斧の大振りな攻撃を、重力を加えた格闘技で埋めるのがアヤカの戦闘スタイルか……。
もともと接近戦が得意じゃない私じゃ、まったく歯が立たない。
ヤバイ……こいつは隙がない……。


「さぁ、そろそろ諦めたほうがいいですよ?」

……いや、諦められるものか!
無理にでも隙を探すんだ!!

ナイフを放つ。
でもそれはアヤカに一睨みで叩き落とされる。
やっぱりただ投げるだけじゃダメだ。
それなら……

うまくいくかどうかわからないけど……。
でも、やってみるしか……。


握った二本のナイフに魔力を込める。
今度は風の魔力。
十分に魔力を満たしたナイフを、手首のスナップをきかせて放つ。

「スピード・フェザー!!」
「む!?」

風を纏ったナイフはそのスピードが飛躍的に増す。
重力は下向きの力。水平方向には力を与えない。
だからスピードが増せば、重力を受け、落ちきる前にアヤカにとどくはず。

「くっ!」

アヤカはなんとか身体をひねってかわした。
ナイフはアヤカをわずかに掠め、アヤカの後方の地面へ突き刺さった。

「もう一発だ! スピード・フェザー!!」
「ちっ! うざったい!!」

もう一度風を蓄えたナイフを放つが、今度はアヤカの前方へと落ちた。
さっきよりも重力が増したらしい。
やっぱり自分の周囲の一定範囲に重力場を形成できるようだ。
それなら……


「はあぁぁぁあっ!!」

アヤカが斧を振り上げて向かってくる。
逃げようと地を蹴るが……

「フフッ!」
「っ!?」

後ろからなにかに掴まれ、足が止まった。
振り向いて確認してみるが、そこには何もない。
が、羽織っているマントに小さな魔法陣が光っていて、地面に沈み込んでいた。
しまった! さっきの攻撃の時にマントにグラビティスタンプを!?

「つかまえた!」
「くっ!!」

ナイフでマントを斬り捨てる。
そして真上に飛び上がった。
背後の壁に斧がめり込み、私は壁の上に着地する。
なんとか間一髪でかわすことができた……。

また新たなナイフを二本取り出す。

「物覚えの悪い人ですね〜?」
「違うね、諦めが悪いのさ! それに何度も同じ手が通用すると思うなよ!」

風の魔力を集めながら、再び空中へと飛び上がる。

「えっ!?」

アヤカが上を見上げる。
ちょうどアヤカの真上に来たときにナイフを放つ。

「スピード・フェザー!!」
「うわっ!!」

無理な状況と体勢だったが、それでもほぼ狙ったところに飛んだ。
ナイフはまたアヤカを掠めて、地面に突き刺さった。
それを見届けて私は地面に着地する。

「重力ってのは下向きにしか働かない力だろ? だから真上からの攻撃じゃ攻撃を防ぐどころか、
逆に威力を増すことになっちゃうんだよねぇ」
「くっ……おのれっ!!」
「タネのバレた手品なんてもう使えないよ!!」

振り下ろされる斧をかわし、また宙に舞い上がる。
またアヤカの真上に来たところで、さっきのズレを微調整してナイフを放つ。
今度こそ捕えた!!
でも、上を見上げたアヤカの顔は自信に溢れた笑顔だった。


「You made a mistake! 重力を甘く見ないで下さい!!」
「えっ!?」

投げたナイフが途中で止まった。
ピタリと止まって宙に浮いている。
それどころか、私の身体も落ちることなく、上空に停止している。
これは……

「重力変化ってのは重くするだけが能じゃないんですよ〜? 軽くすることだってできるんです。
いい体験してますねぇ、保田さん。無重力なんて滅多に経験できませんよ?」
「くっ、なんだよ、これっ!?」
「あら、あんまりお気に召さないようですねぇ? それじゃ降ろしてあげます」

下で魔力の集まる気配を感じる。
ヤバイ! これじゃ格好の的だ!!
逃げたいのだが、場所を移動することすらままならない。もがいても空を切るだけ。

「ガイア・アーム!!」

アヤカが魔力を地に押しつけると、地面から巨大な腕が出現した。
その岩の腕が宙に浮いた私の身体を握りしめる。

「うわっ!!」

そしてそのまま地面に叩きつけられる。
身体がバラバラになりそうな衝撃が襲ってくる。


「くっ……」
「まったく、しぶといですねぇ」
「まだまだ……」
「いいえ、もうcheck mateです」
「えっ……?」

言われて気づく。
しまった、この場所は!!

慌てて立ち上がろうとしたが遅かった。
足下に現れたダークブラウンの魔法陣。

「グラビティ・フィールド!!」
「うわああぁぁあっ!!」

急に身体が重くなり、私は地面にはいつくばる。
見えない力に圧迫されてる感じ。いや、まさしくそうなのだ……。

「今保田さんには通常の5倍のGがかかってます。保田さんが来る前に前もっていろんな
ところにTrapを仕掛けておいたんですけどねぇ。保田さんはうまく微少な魔力を読んで
かわしていたので、ちょっと強引に」
「くっ……」

体を動かそうと思ってもまったく動かない。
5倍の重力ってことは、体重が5倍になったってことか。うわ、ヤだなぁ……。


「そのまま圧殺しちゃってもいいんですけど、宣言通り、このギロチンアックスで首を
はねとばしてあげます」

アヤカが斧を引き抜き、私のほうに歩いてくる。
一歩一歩着実に。
その目はしっかりと私を見下ろしている。

いいぞ、そのまま来い!
最後の賭は……私の勝ちだ!

「フフ、それではそろそろ……」
「あぁ、これで終わりだ!!」
「えっ?」

アヤカが足を踏み入れた。
仕掛けたトラップが発動する。
大地が輝き、深緑の魔法陣が現れる。

「なっ、これは!?」
「トラップを張っていたのはあんただけじゃなかったのさ!」
「そんな、いつの間に……」

アヤカがあたりを見渡す。
おそらくその目に映っているだろう。地面に突き刺さった六本のナイフが描き出す六芒星と正円。
そしてそこに刻まれた魔法式。
ナイフに込めた魔力を使って作り出した魔法陣。


「私の使える最高の風魔法だ! くらえ! ディストラクション・トーネード!!」
「くっ、アース・シールド!!」

魔法陣から竜巻が溢れ出す。
アヤカも土のシールドを張るけど……

「無駄だね、風は土を風化させる!!」
「なっ……?」

シールドに亀裂が入る。
一瞬は風を抑えられたけど、すぐにシールドは崩れ去った。
真空の刃がアヤカの身体を切り裂く。

「うわああぁぁぁっ!!」

アヤカの身体が竜巻に空高く巻き上げられる。
そして一瞬のあと、地面に叩きつけられた。

その瞬間に周りの重力場が解けた。
どうやら魔法陣の魔力が尽きたみたい。

「ふぅ……」

立ち上がってアヤカのもとへと歩み寄る。

「くっ……残念でしたね、まだ死んでませんよ? ワタシもけっこうしぶといんで……」
「重力を操って衝撃を和らげたみたいだね。それでも、もう身体を動かすことはできないでしょ?」
「……そうですね、もう抵抗できません。殺しなさい……」

ナイフを取り出し、逆手に握りしめ、アヤカの側にしゃがみ込む。
そしてナイフを振り上げて……

  ドカッ!!

「……えっ?」

ナイフはアヤカの横の地面に突き刺さった。

「……どうしたんですか? やらないんですか?」
「あぁ、そのつもりだったよ。でもピッコロ王国に派遣した調査隊が妙なもの見つけちゃったんでね……」
「・・・・・・」
「ピッコロ王国の人里離れた山奥で多数の生き残りが発見されたってさ。話を聞くと斉藤瞳が攻めてくる前に
避難させられてたらしい。あんただろ、アヤカ……」
「……あらら、ずいぶんと簡単に見つかっちゃいましたね……けっこう考えて選んだのに」

アヤカがふーっと息を吐いた。
私はナイフを引き抜いて立ち上がる。


「今回だけ命は助けるけど……次に私の前に現れたときは容赦しない」
「わかりました、肝に銘じておきますよ……」

こんな私は甘いだろうか?
少なくともピッコロ王国時代の私は目の前の敵を助けたりはしなかったのに……。
ハロモニランドでの数年で私も変わったってことだろうか……?

なっちの顔が思い浮かんだ。
敵でも極力殺さないように戦ってるなっち。
いつの間にか私もなっちに毒されたってことか……?

でも、ま、いいか。
そんな自分も悪くない……。

そう思いつつ、私はコロシアムをあとにした。







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