第7話


<#2 慕情−3>


年長組の笑顔に見守られながら、藤本をはじめとした6期たちとの挨拶が終わると、
お約束の歓談タイムとなった。
旧知のメンバーが、かわるがわる俺のところへ来て語り合う。
ジョーさんのおかげで映画もクランク・アップできたよ。
ホント、大変だったよねえ。
無事に解決したのはジョーさんのおかげだべさ。
ゼンは元気にやってんの?

そう、あの事件で大活躍したラブラドール・レトリバーのゼンは、本来の飼い主である
俺と共に、現在は米国で活動している。今回は知り合いのハンターに預けてきたが、
あいつがこの場にいれば、俺なんかそっちのけで可愛がられてるだろうな。
「連れてくればよかったのにぃ」そうか、お前はとくにそうだろうな矢口。
「しょうがないべ。ここはペット禁止だしよ。まあ、また会う機会もあらぁな」
「むう…オイラが会いたがってたって、ちゃんと伝えてよね」
「あいよ」

そんな風に話していると、時間は驚くほど早く経過していく。いつのまにかテーブル
上の料理はどんどん皆の胃袋へと運ばれていき、年長組が好みの酒を注文しはじ
めている。そろそろいいかな。

「もうちっと気の利いたこと言えよ吉澤、こら」頭をコツンとやると、吉澤は若干ムッ
とした顔でこちらを向いた。
「ったいなあ。いいじゃんあれで。みんな気持ちはわかってるからさっ」
「素直じゃないな。『ずっと逢いたかったよー』とか言えんのか」
「そんな恥ずかしいこと言えるわけないじゃん。また元に戻ってるし」
「何が」
「そっちこそ素直じゃないよね」
「んだとこら」
「何よ」
久しぶりだってのに、もうこれだ。
けど有難いことに、事情を知ってる連中は微笑んでくれている。
「うっひゃひゃひゃ。もー夫婦喧嘩だよ」…訂正。矢口を除いてだ。

「ねーねー、二人はメールとかしてたのぉ」
加護め、茶化しに来たな。
「えっああ、してたよ。電話はたまにだけど」
「俺がかけなきゃ、してきやがらねーんだこいつは」
「だって高いじゃん電話代」
「へん、下手すりゃ俺より稼いでるトップ・アイドルがよく言うよ」
「時差考えないでとんでもない時間にかけてくるくせに」
「それでも嬉しそうに出るのはどちらさまかな」
「この」
拳を振り上げかけた吉澤は、加護をみてパタと止まった。

「いいなあ、仲良くって。アメリカなんてメッチャ遠いのに」
「あいぼん?」
俺たちを交互に見る笑顔に、僅かな悲しみが宿っていた。
「ねーねー、ウチにも教えてよ、ジョーさんのアドレス。こんどメールするよ」
「かまわんが、どうした加護。何かあったのか」
「ううん。何でもないよ」
「隠さんでいい。話してみ」
「…」加護は黙ってしまった。
「加護ちゃん…」ただならぬ様子に、吉澤の口調も変わった。

「でへへへへへーっ。うっそだよーん」加護はあっかんべーをすると、自分の席へ
戻っていった。
「こらあっ、あいぼん!」怒声をあげる吉澤に、ほっとしている様子がうかがえた。
だが。
「何かあったな、ありゃ」
「やっぱそう思う?」
「間違いないだろう。悩みを抱えてる。おそらく恋愛のな」
「年頃だもんね、あの二人も」
再び辻とじゃれあい始めた加護。いつもと変わらないように見えるが、ハンターの
眼は誤魔化せない。吉澤も、現役が認めた「候補」だぞ。

「この休暇中に話してみ。お前なら聞きだせるべ」
「あたし?どうかなあ。矢口さんとかのがいいんじゃない」
「いや。ありゃお前に話を聞いてもらいたがってる顔だ」
「そうかな」
「それと、あ…まあいい。あとで話すわ」
「くすっ」
「何だ」
「マネージャーみたいだよジョーさん。いや、兄貴かな」
「かもな。そこでだ」

水割りをぐい、と干し、料理をメインにちびちび飲っている年長組に声をかけた。
藤本を含めたメンバーたちが円陣を組むの待ち、声をひそめる。
「みんなここじゃ好きに飲れんだろ。21時に俺の部屋へ来い。本国から持ってきた
酒がたんまりある。本場のバーボンで、飲みなおしといこうぜ」

自分が飲みたいというのも無論あるが、ちと確かめたいことがある。
「おっしゃー!」拳を高く突き上げかけた矢口が、飯田のヘッドロックで制止された。
酒癖があまり良くないって噂がマジかどうかも、これでわかるってもんだ。
「ほんと?嬉しいべさー」安倍はほんのり赤くなった頬に、例のスマイルを浮かべた。
「あたしも行っていいんですか」藤本は今日会ったばかりのハンターの意外な申し出に
驚いているようだが、俺みたいなのに遠慮は無用だ。
「いいとも。今夜ぐらい思い切り飲れ」「やりぃ」藤本は控えめにガッツポーズをとった。

そして吉澤と石川は
「やっぱ、こーいうひとだよね」
「うん。さすが」
と微笑をかわしていたのだった。



(もう少し、か)何度目かのため息をつき、携帯を閉じた。
彼女からのメールは

ごめんなさい。もうす
こし待ってて。
かならず会いに行き
ます

まだ一人になれないらしい。忍び会いには、こういった我慢はつきものだ。
日本で会うのは、お互いの仕事を考えて夜に限っていた。とくに最近は彼女の
スケジュールがタイトだったこともあり、逢っている時間自体が短かった。
その心配がないハワイでは、もう少し自由になるかと思っていたが…。
再びつきかけたため息を飲み込み、彼は外の空気を吸いに部屋を出た。





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