第6話


<#2 慕情−2>


少々のユーモアを交えて話すあいだ、年少メンバーたちは固唾を飲んでいた。そんな
緊張せんでもいいのに。そして、事情を知っている連中の顔には、微笑。
そうだよな、もう笑って話しても言い頃だ。
「それとな、帰国の直前に、パーティーまでやってもらっちゃったろ。あれな、本気で
嬉しかったんだ」
当時のことを思い出しながらだから、少し遠い眼をしていたかもしれない。


それに加え、ツアーの合間をみて吉澤たちが様子を見にやって来てくれたばかりで
なく、体力が完全に戻りいよいよ帰国が迫ったある日、メンバーたちが何の前触れ
もなく大挙しておしかけた。現役の娘。たちに、一緒にやってきた保田、やや遅れた
中澤と、大遅刻(仕事だから仕方ないが)の後藤である。
総勢14人+絶対に匂いを嗅ぎ付けると思った逢坂と俺。当然、大宴会だ。

ドタドタと上がり込むなり、「すっげー、何だこりゃ」と叫ぶ加護。
「なちゅみ、すっごい広いよ!」と後方をふりかえる辻。
「わっ、なんだなんだ」
「はじめましてー」礼儀正しく頭を下げたのは、小川だったか。
「ジョーさん元気になってよかったですねっ」と首を傾げて微笑んだのは、紺野だった
と思う。
初めて会うメンバーも、まるで旧知の兄貴分に会うようなオーラ全開であった。やって
来たメンバーは、深さの違いこそあれ事件を知らされたらしい。家族に至るまでの、
厳重なかん口令が敷かれたのは言うまでもない。


「ごめん急に。今日しか時間ないからさ。フェアウェル・パーティーやるなら今夜だよ
って話になって」吉澤は、まずかったかな、という顔で言ってきたが。
「…」
「怒った?」
「いや。ありがとう」
「へ…」
「こらあ!お前らがミニモニ。の小悪魔コンビかぁっ」
「「ひゃーっ」」
急に照れ臭くなって、加護と辻をネタに逃げた。
吉澤にはわかっていただろう。俺は本気で感謝していた。


「あのときは吉澤にしか礼を言えなかったけど…すごいグループだと思ったよ、
モーニング娘。ってやつは。戻ってからのことを考えて鬱に入りかけてた人間を、
たちまちパワー全開にもっていける。今日はそのときの礼も込みだ。存分に食って、
飲んでくれたまえ。以上!」
「わあぁ!」
ひときわ大きな歓声があがった。

「さあ、では乾杯と行きましょう」と再び立ち上がった飯田を矢口が制した。
「ちょっと待ったカオリ、ここはやっぱり『姫』に音頭をとってもらわにゃあ」
(げっ、まさかここで来るなんて)慌てて眼を伏せた吉澤だが、逃れられるはずがない。
「ほらぁよしこ、出番だよ」
「飯田さんがやるべきですよぉ」
「いっちばん嬉しいくせに」
二人の冷やかしに、助けを求めるように石川を見たが「よっすぃー、ほらっ」とグラスを
渡されてしまった。既に皆のグラスにはシャンパンが満たされている。


「えーそれでは」
覚悟を決めたか、吉澤は立ち上がった。
「みんなびっくりしたよね、あの招待状。何が起きるのか心配したコもいるでしょ。
待ってるのがこの人だとは、あたしもぜんぜん考えてなかったよ。けど、みんな同じ
気持ちだと思う。また逢えて嬉しいよ。ありがとうジョーさん」
「どういたしまして。」
矢口が「ヒューヒュー」とやりかけ安倍に口を塞がれるのを見て笑みをもらし、吉澤は
続けた。

「これは、ジョーさんのお礼もだけどさ、慣れないイベントを、本当に頑張って乗り切った
あたしたちに対する御褒美でもあると思うんだ。みんな、ひとつも残すんじゃないよ!」
「おーっ!」
「じゃあ、再会を祝してと、お疲れ様でしたー!カンパーイ!!」
「カンパーイ!!!!!!!」

交わるグラスとグラスがたてる小気味良い音が室内を席巻する中、吉澤が俺に向き、
カムアップをしてみせた。
(サンキュ。イェイ)声は出さなかったが、彼女の唇は間違いなくそう動いた。





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