第5話


<#2 慕情−1>


「久しぶりだな、娘。たちよ。ってか」
俺は静かに片手を上げた。
歓声をあげ突進してくるメンバーたち。なぜか懐かしい気がする。

「お久しぶりですぅ」トップでゴールした石川が『しな』を作った。
「おお、しばらく見んうちにナンだ、また黒くなったな」
「もぉ!またってなんですかぁ。他に言い方ないんですか、セクシーになったとかっ」
「意味わかって言ってるんだろうな。おっ安倍。聴いたぞシングル。春にはソロにな
んだってな。アメリカから応援してるぜ。頑張れよ」
俺なりに思うところもあって、あえて『卒業』という言葉は使わなかった。

「うん…ありがと」
「どした?」一瞬だが、表情が曇ったように見えた。
「ううん、おかげさまでねえ。うん、頑張るよぉ。ジョーさんも元気そうでよかったさぁ」
「おお、元気だぜ。疲れてるみたいだな」
「そんなことないよ」
微笑に混在する翳を見逃す俺ではない。このテンションの低さはどうしたことだ。
初期メンバーでただ一人、残ることになる飯田に気がねでもしてるのか。それとも、
皆の前で出す話題じゃなかったのか。「それはない」って吉澤は言ってたが。

思い過ごしながらいいが…とテーブルを見ると
「ってこら加護!辻もだ!まだ早いっ」
「「えへへへへへ」」二人はつまみ食い寸前だった。
「飯田、あい変わらず大変そうだな」
「そーなんですよぉ。もう心労で痩せちゃって」
トップモデル級の微笑を浮かべる飯田も、言葉とは裏腹に元気そうだ。

「DVD見たぞ矢口。写真集も送ってくれや」
つんく♂が送ってよこしたのだが、まあびっくりしたわ。
「いやはははははは、あれはねえ」
照れ臭そうに笑う矢口の隣で、藤本が遠慮がちに口を開いた。
「あの…もしかしてこの人が」
「そっか。藤本は会ってないんだよね。あと新垣と6期もだ」
確かに。あのときは、仕事と学校の都合で全員揃わなかったのだ。


そんなことを考えていると、ねーどーしているのー、と小悪魔コンビが両腕を引っ張り
はじめた。
「こらーっ、そーいうのは後!席に着きなさいっ」
飯田が一喝してくれて助かった。
「「はーい」」普段は大人っぽさも漂わせるようになったくせに、こういうときだけ子供に
戻る二人をキッと睨むと、飯田は、入口で立ったままの吉澤を見た。
いつまで硬直してるんだ、あやつは。


「ほらっ、おいでよ」吉澤は矢口に促され、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
先に席に着いた石川が、嬉しそうな笑顔で迎える。(よかったね)唇がそう動くのが
わかった。吉澤の頬が赤くなったようだ。余計なこと言うなよ。

「よっ。久しぶりだな」
「うん」
別に挨拶なんざ、必要ないのだが。
(元気そうじゃん)
(おうよ。お前もな)
(あたしにまで秘密にしとくなんて、ずいぶんじゃない)
(それじゃサプライズパーティーにならんだろうよ)
(だからってさぁ)
「ふっふっふっ…」左手の席で矢口が変な含み笑いを漏らしていた。隣の安倍も
悪戯っ子みたいな眼になっている。やば、あとで冷やかされるぞこりゃ。


「はいはーい。みんな聞いてえ。えーと、こちらにいらっしゃるのが今日のパーティーの
主催者、でいいんですよね」
「ああ」
「だそうです。えー、今年の春、知ってる娘もいると思うけど、事件を解決してくれた
のが、この方。高科穣也さんといいます。6期は初めてだよね」
飯田の前口上に、真っ先に藤本が反応した。
「やっぱり、この人が梨華ちゃんがその、・・・・・・・・になったときに助けてくれた、って
いう」彼女は事件の内容を伏せた。復帰した石川から聞いたのだろう。
もう解決したからいいんだけどな。それに、あれから5ヶ月も経つ。6期の娘たちまで
知っててもおかしくない。

「その通り!ジョーさんは、現役バリバリのバウンティ・ハンターです!」威風堂々たる
紹介だが、バウンティ・ハンターってぇ単語を使ってもなあ。こういうときは日本語のが
いいぜリーダー。
「それでは、招待主であるジョーさんから一言いただきたいと思いますっ」
「はくしゅっ!」
絶妙のタイミングで矢口が合いの手を入れると、室内は歓声と拍手に満ちた。


「えーそれでは」
立ち上がった途端にシンとなった。
「飯田が言ったのは置いといて、今日みんなを招待したわけだけ話すよ。おっとその
前に。藤本、それから亀井に道重に田中、とは初めてだな。性格的に「さん」付けは
できないから、先に謝っとく。悪く思わんでくれな」
「「ププッ」」吉澤が、釣られて石川が吹き出す。そんなに変かね。

「こら、マジに話してんだぞ」
「ごめん。続けて」
二人を軽く一喝し、俺はあらためて順繰りに顔を見ながら話し始めた。


初春に起きたあの事件で、モーニング娘。のメンバーたちに教えられたことがある。
メンバーたちが見せてくれたものは今さら言うまでもないが、凄いと思ったのは、
彼女達が自分の仕事をきちんとこなしながら、捜査のターニング・ポイントをおさえ
ていたことである。
それは、眠っていた力が発現(俺も古いな)したに他ならなかった。
米国に帰って仕事を再開したとき、俺の頭の中には常に「負けられん」というの
があった。バウンティ・ハンターとして一人立ちし、そこそこの生活が出来ていた
ことで失われていたハングリー精神が、自分の中に甦ったのである。
モーニング娘。との邂逅がその引き鉄となったのだ。


そして、もう一つ。
彼女たちの中にそういう力が宿る、バックボーンとなった人々の存在だ。
大プロデューサー以外の、裏方となって技術的にも精神的にも支えになっている
人々の存在なくして、開花しただろうか。
俺は米国に拠点を構えて以来、自分を一匹狼だと思ってやってきた。
だが、そう思えるまでになった屋台骨とは何だ?

それは「人」だ。
逢坂、涼子、教授、美弥子…スペンサーやリーシャもいる。ゼンも忘れちゃいけない。
そいつを思い出させてくれたのは、「元」を含めたモーニング娘。のメンバーたちだ。
原点に戻ることの大切さを、彼女達は教えてくれた。
本来なら、俺が東京へ出向いて行って頭を下げるべきだったのかもな。





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