第25話


<#5 究明−4>


『電話を貸してくださいませんか。それと、番号リストも』
御代田宗一は、ようやく辿り着いた民家で驚くべき事態に遭遇した。
ハワイローカルの放送局が、自分の死を伝えたのである。
聞いたことすらない公園で、国際免許証を持った遺体がみつかったという。

(そんな馬鹿な。俺はここにいる)ニュースは、今朝の報道から半日が経過した
いまも有力な手掛りはあがっていないと報じていた。
すると、もう何度も放映されているのか。彼女が観てしまったら、どんな行動を
とるか想像もつかない。一刻も早く、無事を知らせなければ。

携帯電話を奪われた御代田にとれる手段は、日本総領事館に保護を求める
ことぐらいしかない。回りくどいかもしれないが、なつみの泊まっているホテル
の番号もわからない状態では致し方なかった。

途中、道に迷って川に行く手を阻まれたりしながら登山道を降りた彼の衣服は
ぼろぼろになっていたが、家の主は何も聞かずに電話を貸してくれた。
家人の話からは、どうやらここはドールのプランテーションからそう遠くないらし
かった。
ずいぶんな山道と思っていたが、ただの農場裏の林だという。冷静なつもりで、
やはり少なからずパニックに陥っていたようだ。

『はい、こちら日本総領事館です』
御代田は日本語で身分と所在を伝え、報道の誤りを指摘した。
すぐにかけつけるという職員に礼を言い、なつみが宿泊しているホテルの番号を
聞いた。用意したばかりのお揃いの携帯は、まだ番号を覚えていなかった。



店の前に車を停め、SIGの初弾装填を確かめてから、ひとみに声をかけた。
「ここで待ってろ。すぐ戻る」
事態によってはそうもいかないかもしれないが、現段階ではこう言うしかない。
「うん。気をつけて」
ドアを閉める直前、ひとみの妙に抑揚のない声が聞こえた。

目の前の店は、店名が×印で消されて書きかえられていることを除けば、外観
上はごく普通の酒場だ。
入ると、4人の男たちがこちらを見た。どいつもこいつも、カウンター内のマスター
以外は頭の悪そうなツラだ。単刀直入に聞かなきゃダメだろうな。
『トシオ・メイスンはどこだ』

いきなり被害者の名前を告げると、昼間っからグラスを口に運んでいた野郎ども
の手が止まった。
『さあ、知らねえな。あんた、どこでその名前を知った』
格上らしい男がカウンター席を降りながら訊いた。
さて、どう答えたもんか。

『こっちの答えがまだだぜ、ブラザー』言うなりSIGを引き抜こうとした背中に、
それとわかる突起物が当った。同時の『そいつを床へ放りな』という小声は、
このテの輩にしては低く落ち着いていた。
俺がドアに手をかけた時点で、その影へ貼り付いたか。ハワイローカルもなめ
ちゃいけねえな。

SIGが隅っこへ蹴り飛ばされ、袖の内側にあった警棒も奪われた。
『床へ座りな。こんなもの…何もンだおまえ』
『"火の玉ジョー"…聞いた事ねぇか、ホノルルの田舎やくざじゃ』
『あん、どっかで』
しゃがみながら、ほう、なぜ知ってる。と言いかけた、その時だった。

ガシャーーーーーーン!!!!!!!

派手な破砕音をたてて、入口のドアが砕け散った。
当然、背後で俺を睥睨していたやつは下肢をひっかけられて床へぶっ倒れ、
突入してきた人影に背中を踏みつけられて、ぐえっとうめいた。

「ジョーさん!」
CZ75を放って寄越すとひとみはいま倒した野郎が向けかけたナイフを
鮮やかに蹴り飛ばした。窓を破り外へ飛び去るのを無視し、俺にむけて
ウインクしてみせやがった。くそ、余裕あるじゃねえかよ、モーニング娘。

偶然かどうかわからないが、俺の右掌に届いたCZはきちんとグリップを握れる
方向を向いていた。

「っしゃあ!」
ふり向きざま連射した。硬直状態から立ち直る直前だった連中の下肢を撃抜き、
床へ転がるのを確認してひとみを見ると、首筋へ横殴りに"警棒"を叩きつける
ところだった。こいつ、やけに素直だなと思ったら、最初からそのつもりだっ
たな。
警棒片手に、相方の危機に突入かよ。
ん、警棒?
まあいい。細かい話しはあとだ。

太腿をおさえて七転八倒しているリーダー格に近づき、さっきとは180度違う
目線を落とした。
『あの質問でも曖昧だったか。言い直す。トシオ・メイスンを殺した奴はどこだ』

その間にも、ひとみは連中が手にしていたナイフを拾い集め、カウンター内で
震えているマスターへ渡している。この店は、ただ連中が占拠しているだけで
マスターは無関係の人間だということは、キャプテンから聞いていた。

『し、知るか。警察にでも聞け』
日本人の少女に場をかきまわされた挙句、一敗地にまみれた無念はわかるが、
言い方がムカつく。頭にキックを見舞って意識を奪い、マスターを凝視した。

マスターの顔には、得体の知れない日本人男女二人が繰り広げた活劇と、扱い
慣れたCZ75を懐へしまわないことに対しての畏怖とがまぜこぜになっていた。
『おそらくガルシアです。さっきまで、ここでそんな話を』

ビンゴ。ひとみと顔を見あわせ本当の意味で微笑みあったのは、今日はこれが初め
てだった。



相手が出ると、小川は半ばもどかしそうに叫んだ。
「もしもしぃ、愛ちゃん?どうそっちは」
『ごめん、まだ見つけられん・・・理沙ちゃんの方はどうなんやろ』
「いま電話してたとこ。いないって。でも、西側はほとんど見たよねぇ」
『そやね。ウチらも海側へ移動するわ。いまどこ』
「えっとね・・・」

モーニング娘。の年少メンバーたちは、暑さで切れそうになる気力を振り絞り
捜索を続けていた。指揮官に言われたとおり、市街地MAPを手に互いの位置を
確認しあっていた。もちろん、きちんと定時連絡を二人に入れている。

「うん、わかった。じゃ、あさ美ちゃんには、間のブロックを頼も」
『了解!』
高橋は携帯を閉じると、深呼吸で息を整えていた田中に声をかける。
「れいな、海へ行くよ。ついてきて」
「はいっ」

見つかってこそいないが、可能性を潰していくことで確実に加護と辻へ近づい
ていることを、高橋と田中だけでなく、皆が信じていた。





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