第17話


<#4 錯綜−1>


入口でバウンティ・ハンターの免許を見せてボディ・チェックを受け、建物の
中へ入っていくと、見覚えのある婦警とすれ違った。なんだ、まだ市警に
いたのか。確かそのうち州警察本部へ行くとか言ってなかったかな。
そんなことを考えていても、もちろん顔には出さない。んなことしたら、誰か
さんの鉄拳もしくは膝が飛んでくるからな。

ふと傍らを見ると、ひとみは落ちつかない様子で周囲を見回していた。
「何だ、はじめてかよ」
「あたりまえでしょ。でも何か騒がしいね。こんなもんなの」
「そのうちわかる」
とだけ答え、奥へと歩を進めた。

日本の警察署…いわゆる「所轄」と、米国のそれとは雰囲気に大きな違い
がある。
たまに日系人もいるが、米国人という国民性の違いによるところは大きい。
署内に陽気な会話と笑いが満ち溢れているのは確かだ。
だが決定的に違うのは、犯罪発生率に比例した、検挙数の多さである。

試しに、そこいらの職員を捕まえて「刑事課はどこ?」とでも聞いてみると
いい。案内を受けてる間に、2・3人は引っ張られてくるだろう。
これが本土になると倍近くにもなるのだから、日本てなぁつくづく、安全な
国だよ。
まあ、おかげで俺みたいのが食っていくには、米国のが何倍もありがたい
わけだが。

ホノルル市警は、2年半ほど前にも何度か来た事がある。もちろん、俺が
引っ張られたわけじゃない。
建て替えたって話は聞かないから、刑事課も前とフロアは同じだろう。そう
踏んで階段を昇りかけたとき、脇の開放されたドアからマイクを通した音声
が聞こえた。

『死体は首から上を切断されたうえ持ち去られているというのは本当なの
でしょうか』
内容に、俺は足を止めた。
「ねえ、これアレでしょ」
ひとみにもわかったようだ。
壇上では、事件の担当官らしい男が数本のマイクを前にして立っている。
そいつに向かって座り、手帳やICレコーダ等を手にしているのは、記者連
中だ。
いわゆる、リリース会見である。

『本当です。公園内の別の場所に、大きな血だまりがありました。少し
離れた茂みの中へ隠したつもりでしょうが、猟犬の鼻にはかなわなかった
ようです』

すると、第一発見者は犬とその飼主か。
『なぜ頭部を持ち去ったのでしょうか』
『我々は、こう考えています。犯人は、最初から殺すつもりではなかった。
おそらく衝動的な殺人でしょう。だから、車移動ではなく、徒歩で公園を
訪れた。死体そのものを運び去ることが出来ないので、頭部だけを持ち
去ったのです。昨夜から今朝まで、付近に車が止まっていたという情報も
ありません』

ふむ。辻褄は合うが、問題は動機と猟奇的行為の主因だ。
『それだけでは、首を切断した理由にはならないのでは?』

『さて、そこです。遺体の身元を隠す理由が、はっきりしません。遺留品
から被害者だと思われるソウイチ・ミヨタは、日本の警察に身元を照会中
ですが、4日前に入国していることしか、現在は判明していないのです』

『では、単純な強盗で、犯人におかしな趣味があるとでも?』
『その線でも捜査にあたっていますが、可能性は低いでしょう。とにかく、
遺体が誰であるかはっきりしないことには。いまミヨタ氏の家族がこちらへ
向かう手続きをとっているとのことです』

そこまで聞いて、2階の刑事課へ向かった。
「違うな」
ひとみが呟いた。今の内容がわかったなら、英語力にも、見習としての
成長力にも自信をもっていい。
「お前もそう思うか」
「うん。観光客なら、放っておいてもアシはつきにくいんじゃない」
ほぼ正解だ。身元がはっきりしたとしても、ただの強盗なら容疑者を絞り
にくい。
身元がわかっちゃ困る理由が殺人犯にあった、とするのが妥当だ。

「知り合いでもいるの」
刑事課に、ということか。
「ああ。警視庁時代からの付き合いだ」
「へえ」

話していると、受付に着いた。書類整理をしていた姉ちゃんが顔をあげる。
ひとみの顔から不安が消え、期待感が全身から吹き出ていた。
バディ候補たるもの、こうでなくっちゃいかん。しかしまあ眼を爛々と輝かせ
やがって。これがただの好奇心なら、即刻ご退場願うところだ。
俺は吹き出すのを堪えながら、婦警に声をかけた。





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