第13話


<#3 慟哭−2>


「ぎぼちわるい…」
「水たくさん飲んで吐いちゃいなよ。楽になるからさ」
二日酔いに苦しむ安倍と、介抱する飯田である。
高橋によれば、時間は覚えてないが、帰ってくるなりトイレへ直行し、出てきたと
思ったら、とっととベッドに倒れこんで爆睡を開始したらしい。
衣服を脱がせることもできず、仕方なく自分のかけ布団をかけたのだそうだ。
冷房を弱くすれば毛布一枚でもなんとかなる。意外と機転が利く17歳、高橋愛。

「やっばむ゛り。二人で行っできで」
外では矢口が待っている。
「そう。じゃ行ってくるね。水、ここにおいとくから」と枕元の水差しを示し、飯田は
立ち上がった。

外へ出ると、矢口は心配でたまらないという顔で立っていた。
「どう、なっち」
「だめ。すっごい二日酔い」
「そう…じゃ、やっぱゆうべのは違うのかな」
「あんなんなるまで酔ってたんじゃ、外に出らんなかったと思うけどね」
「だね」
話しながらエレベータへ向かっていると、朝食を終えた高橋がやってきた。
ちなみに、ジョーが無理に頼んだこともあってかメンバーの部屋は各階に散って
いた。
「おかえりぃ。みんなは?」
「だいたい食べ終わって部屋に戻りましたよ」いま残ってるのは石川と吉澤だけだ。
矢口の問いに答えたあと、高橋はじっと飯田を見た。

「どした」
「いやあ、藤本さんがあんななのに、しゃんとしとるなあて」
昨夜の飲み比べは、当然ながら飯田の大勝だった。曰く「6年早い」
デビュー当初から中澤に鍛えられていた愛弟子とすれば、赤子の手をひねるも
同然だった。
「なに、二日酔いなの藤本」飯田は不思議そうだ。そりゃ、あんたと比べれば。
「もうすんごいですよ。ジュースしか飲まんで『うえっ』ばっか」
「ひゃはははは。そんなんで起きただけ偉いよね。じゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃいまし」
うやうやしく道を空けて礼をする高橋に微笑を残し、二人はカフェへ向かった。

「ただいま。安倍さー…」
「う゛ーお゛かえり゛ぃ」横になっていた安倍が上半身を起こして迎えた。
(わちゃ、こりゃあかんわ)回復していたら聞いてみたいことがあった高橋は、
いまにもトイレへダッシュしそうな安倍をみて断念した。

次期エースと言われて2年がたつ。だが、自分にはそうなる意思もなかったし、
そんな力もないと思っていた。
唄とダンスには自信があるものの、決定的に喋りが苦手の高橋は、トークでも
演技でも、抜群の輝きを見せる安倍には及ばない。
けど、安倍さんも、前は『エース』と呼ばれることにプレッシャーとストレスを感じ
てたって聞いた。その頃のことを本人の口から聞いてみたいんやけど…。

しかし、残念ながらその状況にはないようだった。
「まこっちゃんたちのとこ行きますけど…薬かなんかもらってきましょうか」
「だいじょうぶだよ。あ゛りがとね…」
コテン、と再び横になった安倍を残し、高橋は(やっぱり、ストレスたまって
んのやね)と妙に納得し、部屋を後にした。



「ねえよっすぃー、今日はどうするの」
食べながら石川が聞いてきた。
(やべ、言い訳考えてなかった)「んーと、あー」(思いつかない。先に謝っとくかな)
「ごめん梨…」
「考えてないなら、ジョーさんとどっか行って来なよ」
お買い物行こーよー、とせがまれると思っていた吉澤は、コケそうになった。

「り、梨華ちゃ…いいの?」
「決まってるじゃん!久しぶりなんだから甘えちゃえ」
「梨華ちゃん…」
「美貴ちゃんがあんなだし、あたしついてるから。そのかわり…」
「なに?」
「お土産忘れないでねっ」
石川はチャーミー・スマイルを爆発させた。
「うん。ありがとう」
吉澤の顔にも笑みが広がる。
「どういたしましてぇ」まるで自分のことのように嬉しそうな石川に(梨華ちゃん、
感謝)と心の中で手をあわせるのであった。





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