第10話


<#2 慕情−6>


加護はひとりで浜へ向かっていた。石川は二次会に行ってくると出かけて行った。
部屋に居て誰か来ても、遊べる精神状態ではない。そこで、ちらほらと人影が見え
る浜辺へ、月明かりを浴びに出たのである。
加護は少し前からヘコんでいた。ショックな出来事があり、一人で泣くこともあった。
周りには気取られないように、皆と一緒のときはいつもの明るい彼女であったが、
辻は薄々勘付いているようだ。

恐るべき甘えんぼキャラで通してきた加護も、辻・紺野・小川とともに高校生となった。
お年頃…つまり、恋の悩みである。
(はぁ…こんなのもうヤだ)
そのとき、砂の上に転がる木片を蹴ったりして寂しそうな加護の視界に、二つの影が
映った。両手が、力なく垂れた。
「うそ…」最も恐れていた光景を目の当たりにしてしまったのだ。
(そんな…や…)瞳に大粒の涙を浮かべ、立ち尽くした。

距離はあったが、彼女には、はっきりと見えた。
二つの影は寄り添い、そして重なり合ったのだった。


辻は、部屋でひとり、テレビを視ていた。
NHKもあるにはあるのだが、民放は英語の洪水だ。加えてこの時間では
「もーっ!つまんないっ」である。
もう一回、お風呂入って寝よっかな…そう思って何気なくバルコニーへ出た。
昼間は超暑いハワイも、夜の風は涼しい。しばらくこうして…ん?
バルコニー直下はホテルのプライベート・ビーチだ。その砂浜を、月明かりが照らして
いた。
そして、辻がみとめたのは
「亜衣ちゃん?」
愛しの相方、加護であった。こんな時間に?
辻の胸中に微かな不安が宿った。


「たっかしなっ、たっかしなっ、ほい・たっかしなっ」
「わーったわーった!少し静かにしろ」
二次会は最高潮に達していた。
唄を要求して止まない高科コールに、仕方なく折れたところである。

「はいよっ」と吉澤がウクレレを差し出す。こちらで買ったものだろう。
「なに、コレかぁ」
「弾けるって言ったじゃん」
「ありゃお前、アコース…ま、いっか」
「「「「イエー!」」」」
「ごほん」
熱くなった自分の頭と身体を冷すように、静かに弾きはじめた。

コードがわからないので最初は音階不明の音が出てしまったが、じきにきれいな
メロディを奏でることができた。弾き語りなんて何年ぶりだろうか。


(JASLRC抵触のため自粛。ちなみに作者は、あるドラマの挿入歌をイメージしました)


随分前のヒット曲だが、不思議と歌詞はスラスラ出てきた。
「すご…つんくさんより上手いかも」その様子なら酔いは覚めたか、矢口。
「ジョーさん、好きになっちゃいそ」石川のウインクが飛んできた。
「やだ、涙出てきちゃった」藤本が鼻をすすった。意外と感受性豊かな娘らしい。
「ふふ、やるじゃん。感動しちゃったよ」吉澤が肩を軽くぶつけてくる。
「いいなぁ…」飯田のコメントは意味不明だ。聞かなかったことにしておこう。

「さあ、お開きにするべ。もう飲めないだろみんな」
耳が赤くなってなきゃいいがと思いつつ言うと、「そうだね。部屋に戻ろうか」と飯田が
解散を宣言した。せっかくの休暇だ。あまり朝寝坊するのも、もったいないだろう。
「あたし片付けて行くから」吉澤も腰をあげた。

だが、皆が腰を上げる中、とんでもないのがいた。
「う゛〜ん」
「うわたたたた」
藤本がフラついて矢口に寄りかかっている。飯田と飲み比べなんてやるからだ。
「藤本・・・・・・んー・・・しっかりっ」
「す…ませんやぐちさん、うごけません…」
「しょうがないなあ、ほれっ」
飯田がしゃがんで背中を示す。しかし…べらぼうに強いな、酒。
酩酊状態の藤本を背負った飯田と、支える矢口が部屋を出て行く。なんだか微笑
ましい光景だ。片づけを少し手伝った石川が、最後になった。

「じゃ、よっすいー、あと頼むねっ」と笑顔を向けた石川は、吉澤の唇が(サンキュ)と
動くのが見えたのだろう。満足そうに手を振って出て行った。


加護がうつむき加減に歩いてくるのを見て、声をかけるのをためらった。
思わず、近くの椰子の木の陰に隠れる。見ていると、加護は全く気づくことなく携帯の
画面を見つめながら歩いてきた。
「ミヨタさん…ぐすっ」
(泣いてる)声をかけなくてよかったと、辻は思った。
人目を避けるためか、ビーチ直結ではない入口へわざわざ回り、加護はホテルへと
入っていった。
(誰とも会いたくないって感じ…)その姿が見えなくなると、ようやく遊歩道へ出た。
この間の空港でも、珍しく皆と離れて一人ぽつんと座っていた。
ずっと見てると、涙を拭うような仕草を見せる。心配して辻が寄っていくと、いつもの
加護に戻って戯れるのだが、ひとりになるとまた、暗い顔をする。

「ミヨタって誰だっけ」
たぶん苗字だと思うけど、娘。の身内にはいないよねそんな名前のヒト…辻はホテル
へと戻りながら、加護のところへ行こうと決意した。
できることなら、力になりたい。だって、きっと娘。じゃなくなっても、ずっと相方だもん。
足を早めた辻の後を、気づかれないよう歩調を合わせて同じ道を戻る影に、彼女は
気付いていなかった。





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