第5話


十代の女の子が7人いれば、賑やかになって当然。
店の奥に用意された個室で、あたしたち7人の食事が始まった。
この店を選んだのはよっすぃーだった。
お惣菜が美味しい店らしい。
和装の店内は落ち着いた感じで、居酒屋と食事処の中間っぽい雰囲気。
もちろんあたしたちの席にアルコールはなし。



あたしは、右隣に紺野、左隣に高橋という場所に座ることになった。
向かい側は、紺野の前に小川、そしてよっすぃー、梨華ちゃん、新垣と並んでいる。

「紺野、何が好き?」

メニューを開きながら問い掛けると、紺野は目を輝かせて筆書きされたメニューを眺めていた。

「えっと……。やっぱり肉じゃがは基本だと思うんですね。それから南瓜の煮つけと、蒸かし芋も美味しそう
です。あぁ、鯛めしもいいですねー…」

うっとりとした声で答える紺野。
いつもの何倍も台詞が流暢だ…。

「――後藤さんは何が好きですか?」

微笑ましく見つめていると、不意に紺野が顔を上げた。
大きな瞳で真っ直ぐ見られて、あたしは少しだけ動揺してしまった。

「え…えっとねぇ……」

紺野の視線から逃れるようにメニューに視線を落とす。

「――春雨」

和洋折衷なメニューの中から目に飛び込んできた好物を挙げた。
紺野はあたしの答えを聞くと、ほわんと微笑んで、美味しいですよねーと頷いてくれる。

……本当に食べることが好きなコだなぁ…。

食事は滞りなく進んでいった。
それぞれ好きなものを注文して、運ばれてきた料理を皆で食べる。
よっすぃーと梨華ちゃんが、楽しい雰囲気を盛り上げてくれた。
あたしはそういうムードメーカ的なことは苦手。
でも、賑やかな雰囲気は嫌いじゃない。

「あっ! 里芋!!」

紺野の声は不思議とあたしの鼓膜に響いてくる。
たぶん小さな声だったんだろうけど、やっぱりあたしは聞き取っていた。
テーブルの上を見ると、小さな器に盛られた里芋の煮っ転がし。

「んー? 紺野、里芋食べる?」

ちょうど紺野の位置からは届きにくいところにある器を引き寄せながら、あたしは小首を傾げて尋ねていた。

「は、はい!」

こくこくと紺野の首が縦に振られる。
あんまりに可愛くて無邪気で、あたしはちょっとした悪戯心が沸き起こってくるのを感じた。

自分の箸で里芋をひとつ取ると、ひょいと紺野の口許へ差し出した。

「はい、あーん」

「えっ!?」

白い紺野の肌が一瞬で桃色に染まる。
忙しなく瞳を瞬き、少し挙動不審になりながら、里芋とあたしの顔を見比べていた。

どうしよう、可愛すぎるっ!
ペットみたい。もっと構いたいよー。

「きゃー、ごっちんってば大胆〜」

語尾にハートマークが付いてそうな勢いで、梨華ちゃんが高く甘い声を張り上げる。

「こーんの。…いらないの?」

益々紺野の顔が赤くなっていくのを見ながら、あたしはわざと問い掛けてみる。
心境はすっかりいじめっ子。

「……ぁ……、ありがとう、ございます…」

あーんと紺野の口が小さく開けられた。
あたしはその中に箸先を入れて、里芋を食べさせる。
ぱくり、と紺野が口を閉じて、もぐもぐと頬を動かした。

「――美味しい?」

「――はぃ……」

覗き込んでみると、大きな黒い瞳を伏し目がちにして、紺野はこくんと頷いた。
未だに仄かに紅潮した頬と、戸惑っている雰囲気に、あたしはちょっと感動を覚えていた。
擦れてない彼女の傍にいたい。
もっと色んな顔を見たい。
そんなことを思いながら。

「はぁー……ラブラブですねぇ…」

新垣の関心したような声に、小川の同意が重なった。
よっすぃーと梨華ちゃんは、何やら複雑な吐息を零していた。

「ごっちんってさぁ、ヤるときゃヤるよねぇ」

「うん。チャーミーちょっとびっくりー」

あたしは、ペロリと舌先を覗かせておどけてみせる。
と、さっきから静かな高橋がちょっと気に掛かった。
紺野と逆側の横を見ると、高橋は黙々と食事をしている。

賑やかな食事の時間も終わり、あたしたちは店先で別れた。
5期のメンバーは4人でタクシーに乗り込む。
あたしたち先輩メンバーはそれを見送った。

「ありがとうございました」
「ごちそうさまです」
「おやすみなさい」
「お疲れ様です」

口々の挨拶と会釈。
あたしは紺野の姿を見ていた。
会釈をして頭を上げた紺野がふとあたしを見る。
視線が絡んで、紺野はぱちぱちと瞬きしてから、ふわりと微笑みを浮かべて、今度はあたしにだけペコンと
会釈をくれた。

「オヤスミー。気をつけてね」

あたしの声は、きっと全員に向けられたものだと思われただろう。
バイバイと軽く手を振る。

紺野がタクシーの後部座席に消えて、最後に残ったのは高橋だった。

「失礼します」

礼儀正しい優等生の彼女は、はきはきとした声で挨拶をくれた。
あたしも彼女に視線を向ける。
すると、まるで待ち構えていたように視線が交わった。

え…?

今度はあたしが瞬く番。

高橋は、やけに強い眼差しであたしを見つめてから、何事もなかったかのようにタクシーに乗り込んだ。
やがて繁華街の夜にテールランプが溶け込んでいくのを見送って、あたしはほっと吐息をつく。

「ごっちんお疲れ」
「お疲れ様。珍しかったよね、今夜のごっちん」

振り返ると、よっすぃーと梨華ちゃんが微笑んでいた。

「―――…そう?」

「ん。いつもより、楽しそうだったよ」

「つか、ごっちん、紺野のことお気に入り?」

ぐいってよっすぃーに肩を抱かれて、にやっと笑った顔で見つめられた。

「や、可愛いじゃん、彼女。あんな妹が欲しいなぁ」

「………妹かぁ。うん、分かる気はするよ。何かぽーっとしてて放っておけない雰囲気はあるよね」

梨華ちゃんの同意に、あたしは取らないでよ?って言いそうになって、慌ててその言葉を飲み込んだ。
取るも取らないも…紺野はあたしのものじゃないし。

その夜、部屋に帰りついたあたしは、紺野の真っ赤に染まった顔を思い出して、くすくすと思い出し笑いをし
てしまった。
7人で行くと決まったときはどうなるかと思ったけど、賑やかで楽しかったなぁ。
紺野との距離が少し縮まったような気がするし。
うん、よっすぃーや梨華ちゃんにも感謝。

今夜は幸せな夢を見られそうな予感――。





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