第3話


大会1ヶ月前、合宿に参加するために、海外組が帰国してきた。

成田空港では、取材人が到着ロビーで選手を待ち構えていた。

まず、姿を見せたのは、ドイツで活躍中の中澤裕子。
だが、その姿を見て、記者たちは固まった。
右腕を三角巾でつるして、表れたのである。
沈黙を破る様に、記者の1人が口を開いた。
「中澤さん。その腕どうなされたのですか。」
「一昨日の練習でやってしまったん。でも、たいしたことないわ。
 と言っても、1次リーグは厳しいかもナ。まあ、決勝トーナメントまでには、なんとかするわ。」
そう言い残すと、左手を振って、出ていった。
「すぐに、本社に連絡だ。明日の1面だ」
記者たちが、慌しく連絡を取り出した。

到着ロビーが再び、落ち付きを取り戻した頃、ブラジルからの飛行機が到着した。
姿を見せたのは、もちろん安倍。
「いやー、凄い数だべさ。みんな、今日帰ってくるんかな」
「安部さん。今大会の目標は?」
「もちろん、優勝だべ。出るからには1番狙うべさ」
「そうそう、中澤さんが右腕怪我されて、1次は出れないそうですが」
「聞いてないよう。まじ?」
安倍は走って、出ていってしまった。

30分後、フランスからの飛行機が到着。
飯田が姿を表した。
「凄い数だね。かおりは人気者だね」
飯田は、満面の笑顔を浮かべている。
「かおりは、札幌に寄っていくから、急いでるから質問はなし」
「じゃあね」
飯田は走って、外に出ていった。

さらに1時間後、イタリアからの飛行機が到着。
後藤と石川が一緒に姿を表した。
記者が質問をしようとすると、後藤は石川の手を掴み、
一気に走り抜けていってしまった。
「ごっちん。いきなりどうしたの。記者達の質問に答えなくて良かったの?」
「実は昨日、監督から電話あってさ。石川の事はなるべく外に知られたくないから
 空港では、よろしく頼むって、連絡もらった。」
「どうしてかな」
「なんか日本の秘密兵器とか言ってたよ。」
「出番あるかもね。同じチームで試合できるかもしれないね。」
そんな会話をしながら、二人はタクシーに乗り、合宿所に向かった。


フランスからの飛行機が着いてから4時間後、飯田は札幌にいた。
監督に頼んで、合流を夜に遅らせてもらい、
しばらく会っていない家族に会いに着ていた。
高校を出て、すぐフランスに渡ってから1度も家族には会っていなかった。
「やっと着いた。8年ぶりかな」
「ただいま」
元気良く玄関のドアを開けた。
「かおり、どうしたの。合宿に行かなくてよかったの」
「8年ぶりに帰ってた娘に、それはないっしょ」
「ごめんね。」
「お姉ちゃん、お帰り」
奥から、中学生の妹の佐紀が出てきた。
「おう。ただいま」
「あまりゆっくりできないけど顔出しにきたぞ」
「はやく、こっちこっち」
佐紀はかおりんの腕をつかみ中へ連れて行った。

4時間くらい話などをし、ゆったり過ごした。

「じゃ、お姉ちゃんをバス停まで送ってくるね」
「2人とも気をつけるのよ」
「大丈夫よ。バス停すぐそこだし」

5分ほど歩くとバス停に着いた。

「ね、次はいつ会える?」
「大会終わったら、フランスに帰る前に寄るよ」
「約束だよ」
「ああ」
「絶対だよ。あっ、バス来たみたい。じゃあね。ホントに帰り寄ってね」
「気をつけれよ」

佐紀は押してきた自転車に乗って車道を渡っていった。

「キャアッ」
ガチャン パァーーーーーーーン キィィィィィィィィ
「佐紀!」
かおりんはとっさに飛び出した。
ミーーーーン ミーーーーン ミーーーーン
「た・・大変だ。早く救急車を・・」
かおりんは、薄れゆく意識の中、せみの鳴き声だけが耳にこだましていた。
この時、すでに左足の感覚は・・・なかった。


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