第45話


<Interlude W  そよ風に寄り添って>


〜藤本美貴〜

「ミキちゃん、ミキちゃん、まきね〜、おおきくなったらミキちゃんのおよめさんになる!」
「え〜、ダメだよ〜、みきがマキちゃんのおよめさんになるの!」
「まきがなるのー!」
「みき!」
「まき!」
「みきなの! もう、マキちゃんなんてきらい!」
「ふぇ!?」
「あ、あれ、マキちゃん……?」
「ふぇぇぇええええ……!」
「わっ!? ま、マキちゃん、なかないでよ!」
「だって、だって……ミキちゃんがマキのこと、きらいって……」
「う、うそだよ! マキちゃんをきらいなわけないでしょ?」
「じゃあ……すき!?」
「すきだよ! だいすき!」
「まきもミキちゃんのことだいすきー!」



◇     ◇     ◇



「ミキちゃん、起きて〜!!」
「う〜ん……」

目をうっすらと開けるとそこにはマキちゃんの顔があった。
なんか夢を見てた気がしたけど、一瞬で忘れた。

「もうちょっと寝かして……」
「ダメ! 仕事が溜まってるんだから!!」
「む〜……」

マキちゃんの声から逃れるようにアタシは雲の掛け布団を頭からかぶる。
でもその布団もすぐに引っぺがされた。

「もう! ミキちゃんはエル・クラウドの女王なんだよ! 今日はグニパルンドの王様に挨拶に
行くんだから!」
「なりたくてなったわけじゃない〜!」
「そんな言い訳は通用しない!」
「とにかくもうちょっと寝るーっ!!」

アタシはなんとか掛け布団を取り戻し、マキちゃんに背中を向ける。
マキちゃんはアタシに聞こえるように、大袈裟に溜め息をつくと、アタシの耳元に唇をよせ……

「さっさと起きないと……襲うよ?」

背中に一筋いやな汗が流れた。
それと同時にアタシは飛び起きる。
マキちゃんが満足そうに笑った。

「あっ、なんだ、冗談……?」
「さぁ、それはどうかな?」
「えっ……?」

とりあえず……起きてよかった。
マキちゃんは起き抜けのアタシに余所行きの服を放り投げてきた。

「じゃあそれに着替えてね。あっ、着替えさせてあげようか?」
「いや、いいって!」
「ちぇ〜。それじゃ、あとで」

そう言ってマキちゃんはアタシの部屋を出て行った。
今度はアタシが大袈裟な溜め息をついた。

アタシがエル・クラウドの女王になって三日目の朝。
アタシは左指に光る指輪を睨みつけた。



◇     ◇     ◇



「はぁ〜……」

エル・クラウドに帰ってきたアタシはぐったりと雲でできたソファに倒れ込んだ。

「おつかれさま、ミキちゃん」

マキちゃんが紅茶の入ったティーカップをテーブルに置く。
アタシはのろのろと起きあがって、紅茶を一口すすった。

別にグニパルンド王との会談に問題があったわけじゃない。
グニパルンドとエル・クラウドはいたって友好的な関係だ。
事実今日会ったグニパルンド王も新しく女王となったアタシに友好的に接してくれた。
「自分にも同じくらいの娘がいる」とのことだ。その国王の娘「三好絵梨香」という名前になぜか
悪寒が走ったのは気のせいとしておく。むしろしておきたい。
つまり何がそんなに疲れたかというと、アタシはああいう堅苦しい場が苦手なのだ。

「ほら、ミキちゃん、次はこの書類に目を通しておいて」

休憩も束の間、マキちゃんはどこからか持ってきた書類の山をテーブルの上に乗せる。
アタシはまたソファに倒れ込んだ。

「めんどくさい〜……」
「そんなこと言わないの。ミキちゃん女王なんだよ!」
「だから、なりたくてなったわけじゃないって〜……」
「でも引き継いだんでしょ?」
「引き継いだんじゃないの! 押し付けられたの!」

三日前、エル・クラウドの国王だったアタシのお父さんは、王の証である
風の魔剣「ストームセイバー」を残し、お母さんと一緒にエル・クラウドを飛び出してしまった。
今はどこかを悠々と旅しているはず。
アタシが熟睡中の犯行だった。
よってアタシは朝起きたらエル・クラウドの女王になってたというわけで。
両親が旅立つ直前にマキちゃんにアタシの補佐を頼んでいたらしく、マキちゃんは
アタシの補佐官として働いてくれている。
つーかその前にまず出ていく両親を止めてよ!!

「でもミキちゃんはちゃんと資格もあるじゃん」
「そりゃ極魔法は使えるようになったけどさぁ……。女王なんかになったら気軽に外に
出れないじゃん……」
「もう十分いろんな所に行ったじゃん。ハロモニランドとか、ロマンス王国とか」
「まだ足りない〜!」
「と・に・か・く! 今日中にこの書類に目を通しておいてね!」
「わかった……あとでやるから、とにかく今は休ませて〜!」

アタシはソファから飛び降りると、一目散に家を飛び出した。
マキちゃんの静止の声も聞かず、アタシは翼を広げて地面を蹴る。

そしてどんどん空へと向かって飛んでいく。
目指すのは雲の樹。その一番てっぺん。
視界が開け、雲の壁の切れ目から無限の空が現れる。
アタシは雲の枝に腰掛けた。今日も気持ちのいい風が流れている。

彼方に見える陸地と、遙かなる、海。
無限に見える海。でもその向こうにはまったく違う世界が広がっている。
いつからか、夢見てた。
いつからか、目指してた。
きっかけはなんだっただろう? 確か、まだ小さい時にお母さんに聞かされた御伽話
だったような気がする。
遙かなる海を越えた先には新しい世界が広がっている。
それが子供心に強烈に焼き付いた。

だから子供のころからエル・クラウドを抜け出して、いろいろなところに冒険しに行った。
最初は特に海の近くの町を中心に。
一番気に入ったのはハロモニランドのハチャマという街だ。
すごく海がキレイだった。なのでかなり長い間その街に居着いてしまった。
そのあいだに友達ができたりもした。ハチャマに住んでいる亜弥ちゃんという女の子。
今ごろどうしているだろう?

とにかく、アタシはここに留まってるわけにはいかない。
まだアタシは夢に辿り着いていないのだから。

「ふぁ〜あ……」

枝の上で大きく伸びをする。
するとなにやら下の方が騒がしくなってきた。
思わずそっちを見ると、樹の根本にマキちゃんがいた。
そのマキちゃんを小さな子供や、大人が囲んでいた。
アタシを呼びに来たところを捕まった。こんな感じだろうか?

子供たちがマキちゃんに手を振りながら去っていく。マキちゃんも手を振って子供たちを見送る。
大人たちはマキちゃんに頭を下げている。マキちゃんも困ったように笑いながら頭を下げる。
マキちゃんは風の民の人望も厚いし、仕事だってちゃんとできる。立派に人の上に立てる素質がある。
マキちゃんの方が女王にふさわしいと思うんだけどなぁ……。

ようやく解放されたマキちゃんが顔を上げ、アタシと目があった。
マキちゃんの背中から翼が生える。
マキちゃんの翼が羽ばたくと、雲の樹をぐんぐんと上り、あっという間にアタシの目の前にやってきた。

「やっぱりここにいた〜!」
「なによ〜! まだ帰らないよ〜!」
「え〜? もう、しょうがないなぁ」

マキちゃんは溜め息を吐くと、アタシのとなりに腰を下ろした。
背中の翼がパッと消える。

「あれっ? 呼びに来たんじゃないの?」
「ううん、アタシも休憩しに来たの」
「なんだぁ……」

身構えて損した……。
そんなことを考えていると、隣りに並んだマキちゃんがそっとアタシに寄り添ってきた。

「ちょ、何、いきなり!?」
「いいじゃぁん、フィアンセなんだから!」
「フィアンセって……だからそれは親同士が昔勝手に決めたことで……」

それもうやむやのままアタシの両親は旅立っちゃったし……。
マキちゃんの両親はもう数年前にどっか行ったっきり。
腕まで絡めてきたマキちゃんからなんとか逃れようとすると、不意にマキちゃんと目があった。

「ミキちゃんは、そんなにアタシと結婚するの、イヤ?」
「えっ……?」

思わず動きが止まる。
その隙にマキちゃんはアタシの身体を捕まえた。
背中にマキちゃんの手が回り、顔が接近する。

「そんなに、アタシと結婚するの、イヤかな……?」

マキちゃんの瞳は不安に揺れていて。
アタシは思わず目をそらしてしまった。

「だって、親が勝手に決めたんだよ? マキちゃんはイヤじゃないの?」
「そりゃね、これが好きでもない人とだったらイヤだけど……」

そっとマキちゃんの手がアタシの頬に触れると、そのまま強引にそらした顔を元に戻された。
マキちゃんの瞳はもう揺れてなく、真剣な色を湛えていて。

「ミキちゃんなら、構わない」
「えっと……」

これって……
つまり……
愛の告白……?

「ミキちゃんは……いや?」

えっと、そりゃ確かに反抗してるけど、それは親が決めたことに従うのがイヤなのであって。
だからマキちゃんと結婚することに関しては別に……イヤじゃない……。

「ねぇ、ミキちゃん……」
「えっと、ミキは……」

でもその時、ズンッ、という轟音とともに、エル・クラウドが揺れた。

「うわっ!?」

枝から落ちそうになったけど、なんとかマキちゃんが支えてくれた。
体勢をなおして、音がしたほうを見てみると、そこには雲を突き破って侵入してきた
三首のワイバーンがいた。

たまにこのエル・クラウドを普通の雲と間違えて突っ込んでくるモンスターがいる。
大抵は結界で弾かれるんだけど、ドラゴンみたいな強いモンスターだと、結界を
突き破るヤツもいて。
そういったモンスターはだいたいがその時の衝撃で錯乱しているから、けっこう大変。
今回のワイバーンも例に漏れず、首を振り回して暴れ回っている。

「ちっ、めんどくさいヤツが……。マキちゃん、行くよ、援護して!」
「うんっ!」

枝を飛び降りる。
翼を生やし、そのままドラゴンへと滑空していく。

「ストームセイバー!!」

指輪が風を吸収し、剣の形に成る。
ストームセイバーをかまえ、さらにスピードを上げてワイバーンへと向かっていく。
アタシのとなりにマキちゃんも並んだ。
マキちゃんの手には愛用の弓が現れていた。

「きゃああああっ!」

その時悲鳴が聞こえた。
ワイバーンの前にへたり込んでいる女の子。どうやら逃げ遅れたらしい。
ワイバーンの腕が振り上げられる。

「マキちゃん!」
「うん、まかせて!」

滑空姿勢のまま、マキちゃんが弓を引き絞る。
不安定な姿勢だけど、マキちゃんが放った矢は的確に振り下ろそうとしたワイバーンの
腕を弾いた。
ワイバーンの三つの首がいっせいにこちらを向く。
その隙に女の子は立ち上がって逃げていった。

『ガアアアァァアアッ!!』

ワイバーンの首の一つから無数の氷塊が吐き出された。
ストームセイバーで切り裂くが、氷塊はまだ無数に乱れ飛んでいて。

「ミキちゃん!」

迫ってきた氷塊のいくつかは、後ろから飛んできたマキちゃんの矢に射抜かれた。
その間にアタシは魔法を構築する。

「ソニック・スラッシュ!!」

放たれたのは幾刃もの真空波。
真空波が氷塊とぶつかり合い、次々に相殺していく。
氷塊は全て相殺したが、今度は別の首がアタシたちを睨んで。

『ガアアアァァアアッ!!』
「うわっ!?」

今度吐き出されたのは灼熱の炎。
さすがに炎相手では部が悪い。風は炎を強めちゃうし。
なんとか寸前でかわす。マキちゃんもかわした。
そのまま空を滑り、ワイバーンへと斬りかかる。

「はぁっ!!」
『ガアアッ!!』

風の魔剣でもさすがにワイバーンの鱗を切り裂くことはできなかった。
完全に弾かれるわけではないが、うっすらとした傷が鱗に入る程度。
くっ、やっぱりワイバーンの皮膚を切り裂くのは厳しいか……。
それなら……!
宝玉から溢れる風を剣に纏わせていく。
振り下ろされたワイバーンの腕をかわし、

「これならどうだ!!」

風を纏ったストームセイバーを振り抜く。
今度は抵抗を感じなかった。
刃がワイバーンの鱗を裂き、肉を切る。

『ギャアアアッ!!』

ワイバーンが吼える。
そして今度は雷撃が吐き出された。

「うわわっ!?」

慌てて翼を羽ばたかせ、空に逃げる。
でもそれを先読みしたように、逃げた先にはもう一つの首が待っていた。

「ぐっ!!」

鞭のようにしなった首がアタシを弾き飛ばす。

「ミキちゃん!!」

アタシは地面に激突する寸前でマキちゃんに抱きとめられた。

「ありがと、マキちゃん」
「ミキちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫、ちゃんとガードしたから」

マキちゃんから離れ、しっかりとストームセイバーを握る。
マキちゃんも弓に矢を番えた。

「ミキちゃん、ドラゴン相手に長期戦になると分が悪い。アタシが引きつけるからその隙に
一撃で決めて」
「わかった!」

マキちゃんとアイコンタクトを交わす。
そしてアタシは飛び上がり、ワイバーンへと向かっていく。
そのアタシを追い越して、マキちゃんの放った矢がワイバーンへと飛んでいった。

『グルルル……』

ワイバーンもしっかりと二つの首がマキちゃんを、もう一つの首がアタシを捕えている。
でもアタシを向いていた首に、今度は竜巻がぶち当たった。

「こっちだよ!!」

マキちゃんが矢を放つ。
矢は風でコントロールされ、複雑な軌跡を描きながら、けれど正確にワイバーンへと飛んでいく。
マキちゃんがワイバーンの意識を引きつけてくれている間に、アタシは風をストームセイバーに
蓄えながら、ワイバーンへと接近する。
そしてワイバーンの懐へと潜り込むことに成功した。

『グル!?』

ワイバーンが気付き、首がアタシに向く。
でもその時にはすでにアタシは魔法を解放していた。

「遅いよ! エアリエル・テンペスト!!」

圧縮された風が一気に暴発し、周囲に嵐が巻き起こる。
解放された嵐はワイバーンに直撃し、ワイバーンの巨体をものともせず吹き飛ばした。
ズゥン、とワイバーンが倒れた。

「よし、トドメ!!」

そのままアタシはストームセイバーをかまえたけど……

「まって、ミキちゃん!」

あたしの前にマキちゃんが立ちはだかった。

「ちょ、どうしたの、マキちゃん!?」
「何も殺すことないよ。ワイバーンだって害意があって侵入してきたわけじゃないんだし」
「そうだけど、でも……!」

そうこうしているうちにワイバーンが起きあがった。
その巨体にマキちゃんは無防備に近づいていく。

「マキちゃん!」
「大丈夫だって!」

でもその言葉とは裏腹に、ワイバーンは腕を振り上げ……

「!!」

ワイバーンの腕がマキちゃんめがけて振り下ろされた。
マキちゃんはなんとかかわすが、爪が掠めたようで、肩口が裂ける。

「マキちゃんっ!!」
「つっ……大丈夫、だから……」

傷ついた肩を押さえながらも、マキちゃんはワイバーンに歩み寄る。
そのマキちゃんにワイバーンは牙を剥いた。
アタシは慌ててストームセイバーに風を集めたけど。
その時、優しい風が吹き抜けた。

「お願い、もうここで暴れないで!」
『グル……?』

その風に乗ったマキちゃんの言葉に、ワイバーンの動きが止まる。

「アタシたちはもう傷つきたくないし、傷つけたくないの!」
『・・・・・・』
「ここはあなたのいる世界じゃないの。だからもう、あなたの世界に戻って……」

マキちゃんもワイバーンも動かなかった。
でも次第にワイバーンの口が閉じられていき。
やがてワイバーンはくるっとアタシたちに背を向けた。
そのまま自分が開けた穴まで歩いていき、白い雲の世界から、青い空へと飛び出ていった。

アタシは夢を見ているような気分だった。
まさかアタシたち風の民がドラゴンと心を通わせることができるなんて……。
でもその時、目の前のマキちゃんの身体がゆっくりと傾いだ。

「! マキちゃん!」

慌てて駆けより、マキちゃんの身体を抱きとめる。
マキちゃんの肩は血に染まっていた。


「あはは、怖かった〜……」
「まったく、無茶して……」



◇     ◇     ◇



「じゃあ、ちょっと染みるよ?」
「うん……っつ!」

そのあとアタシはケガの治療のため、マキちゃんを自分の部屋まで連れてきた。
ベッドにマキちゃんを座らせ、傷跡を消毒し、丁寧に包帯を巻いていく。

「けっこう深かったね。ちょっと跡残るかも」
「えぇ〜!?」
「しょうがないじゃない、自業自得よ」
「むぅ……」

しっかりと包帯を巻き、止める。
これで治療は終了。
アタシはようやく一つ息をついた。

「まったく、あんまりヒヤヒヤさせないでよ……」
「うん、でも上手くいってよかった」
「こんな傷まで作って……。あんなことしないで倒しちゃえばよかったのに……」
「でも倒さなくて済むなら、そのほうがいいじゃん」

また優しい風が吹いたような気がした。
強い風を生み出すことは簡単でも、こんな優しい風を生み出すのはなかなかできない。

マキちゃんは他の風の民とはどこか違う。
風の民が自由気ままに好きなところを吹き抜ける突風だとしたら。
マキちゃんはいつも決まったところを優しく撫でていく、そよ風。

「ねぇ、そういえばマキちゃんってさ、ほとんどエル・クラウドから出たことないよね?」
「ん〜、考えてみればそうだねぇ〜」
「マキちゃんはさ、どこか行ってみたいとか、そういうのはないの?」
「んあ?」

思わず疑問が口に出てしまった。
マキちゃんは一瞬キョトンとしたけど、すぐに笑顔になって。

「ないよ。アタシは今のままで十分」
「何で〜? こんな雲の中にいたって面白くないじゃん?」
「そんなことないよ、だって、ミキちゃんがいるじゃない?」
「えっ……?」

そんな答えは予想してなくて、思わずアタシはマキちゃんの方を向く。
マキちゃんはいつの間にかアタシとの距離をつめていて。
そっと、アタシの身体に抱きついてきた。

「ま、マキちゃん!?」
「好きな人が傍にいてくれる。たまにふらっと出て行っちゃうけど、ちゃんと戻ってきてくれる。
だからアタシはここにいるよ」
「・・・・・・」

今度こそ本当の、愛の告白だった。
嬉しいというか、ちょっとくすぐったい。

「ミキちゃん、大好き……」

マキちゃんの体重がかかってきて、アタシはベッドの上に倒される。
見上げるマキちゃんはすごくキレイだった。
ゆっくりとマキちゃんの顔が近づいてくる。
まるでアタシに逃げる時間を与えてくれるように、ゆっくりと。
でもアタシは逃げずに目を閉じた。
初めてのキスは甘くて優しい味がした。

いつも自分勝手で、自由気ままな、こんなアタシを
本気で好きになってくれて、ありがとう……。



◇     ◇     ◇



翌朝。
かなり早い時間にアタシは目を覚ました。
隣で寝ているマキちゃんはまだ起きる気配がない。
そっとベッドを抜け出し、アタシはさっさと服を着替える。

マキちゃんがいれば、きっとエル・クラウドはうまくまとまる。
アタシ以上にしっかりとまとめてくれる。
だから少しの間だけ、頼っちゃっていいかな……?

寝ているマキちゃんの手にそっと指輪を握らせる。
今回の旅で別の大陸に行く方法を見つけて。
そしたら必ず迎えに来るから。

家を出て、翼を広げる。
そして一気に大地を蹴った。
優しいそよ風が、そっと背中を押してくれた……気がした……。



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