第4話


<Chapter.2-1 ファーストキス>


〜紺野あさ美〜

地の魔力と雷の魔力を手に集める。
魔玉ができあがったら手から切り離し、今度は一気に手を上下に展開する。
同じように水と風の魔力を集め、魔玉をセットする。
そして両手を、四つの魔玉の中央に合わせたが、その瞬間に魔玉は次々と弾けて消えた。

「あっ……」

やっぱりまだ遅い。
しかも全然その速さが変わってない……。
これはかなり長期的な研究が必要かもなぁ。

「ふぅ……」

とりあえず実践はここまでにしておこう。
あとはもうちょっとショートカットのスピードが速くなる方法はないか、もう一回調べてみよう。
そう思って、私は地下への階段に向かったけど……

「あ、あれ……?」

ふらっと目眩がした。
なんとか壁に手をついて、倒れるのはこらえる。

「そういえば……最近研究ばっかりであんまり眠ってなかったな……」

そう気づくと一気に眠くなってきた。
寝ないと魔力も回復しないし、疲れも溜まるばかり。

「うぅ……しょうがない、ちょっと眠ろう……」

そう思い直し、私は向きを変えて自分の部屋へと向かった。

「ふぁ……」

階段を上って部屋に着くと、さらに眠気が襲ってきた。
やっぱりちょっと無理しすぎたかな……。

「んっ……おやすみなさい……」

別に誰に言うわけでもないんだけど……。
私はマントも脱がずにベッドの上に倒れ込んだ。
だんだんと……意識が微睡んでいく……


  ガシャーン!!

「!?」

でも突如響いた破砕音。
眠ってた意識が一気に覚醒する。
慌ててベッドから飛び起き、目を開いて状況を確認する。

部屋の窓が割れていた。
床の上に砕けたガラスが散乱していて、
そのガラスを踏んづけて立っている女の人……。

「……!?」

誰……!?
見たこともない人。
しかもここ、三階なのに……。

何者かなんてわからない。
でも私は身構えた。
たいしてその人は身構えるでもなく、部屋の中をきょろきょろと見まわしていて。
その目は最後に私に止まった。
足下から頭のてっぺんまで視線が移動し、また正面に戻ってきた。

「おっと、しまった、もう一つ隣やったか。同じような窓ばかりやったから間違えてもうた」
「えっ!?」

隣!?
隣って……田中ちゃんのこと!?

「あなたは何者!? 田中ちゃんに何の用!?」
「田中ちゃん……? へぇ、田中ちゃんって言うんや。アタシらの間では『闇斬りの少女』としか
呼んでへんかったからな」
「な…に……?」

こいつは……何者……?
戸惑ってる私を見て、そいつはニヤッと笑った。

「でも『田中ちゃん』なんて、ずいぶんと親しいみたいやな。ちょうどええわ。それなら
『田中ちゃん』をおびき出すために使わせてもらうわ!」
「なっ……!?」



◇     ◇     ◇



〜田中れいな〜

「はあっ!!」
「うおっ……」

今日もあたしは吉澤さんと剣の訓練。
握った木刀を、眼前の吉澤さんめがけて振り下ろす。
吉澤さんの片手に提げた木刀がすっと現れ、打ち降ろしを止めるけど、すぐさま木刀を
引き戻し、今度は真横に振り抜く。

「おおぅ、ここ数日でずいぶんと素速くなったね……」
「れいなだってずっとやられっぱなしじゃないとよ!!」

吉澤さんに反撃の隙を与えず、木刀を振る。
より速く、より鋭く。
そのまま押し続ける。吉澤さんがジリジリと後退していく。

「ちっ……」

あたしの木刀を弾いた吉澤さんの木刀が旋回する。
そしてそのままあたしに向かって振り下ろされてきたけど……。
今だっ!!
手にした木刀の先端を地面へと突き刺し、一気に地を蹴る。

「えっ……?」

あたしは吉澤さんの頭の上を飛び越え、吉澤さんの背後に着地した。

「はあっ!!」
「げっ!!」

そのまま身体を半回転させ、木刀を振り抜く。
吉澤さんも同じように身体の向きを変えるけど、完全に意表をつかれたぶん、反応が遅くて。


「っつ〜……」
「フフフ……」

あたしの木刀は吉澤さんの左腕にガードされて止まった。

「まさかウチに両腕を使わせるなんてねぇ……」
「真剣だったら左腕がなくなってましたねぇ。次は顔面にぶち当ててやるとよ!」

吉澤さんはしばらく打たれた左腕をプラプラと振っていたけど。
そのあとで、今度は持っていた木刀を両手で握った。

「そんじゃあ特別に、今度は両手でやってやるよ」
「どうせたいして変わらんと!」

また木刀を構えて走り出す。
吉澤さんの手前で跳躍し、大上段から体重を込めて振り下ろす。
狙うは当然ながら、あのすかした顔面。
でもその前に木刀が現れて……

  ギィン!!

「!?」

二本の木刀がクロスした瞬間、あたしは弾き飛ばされた。
片手の時とはまったく違う、その抵抗。そして堅さ。

「ほら、行くよ!」

今度は吉澤さんが向かってくる。
両手を添えた木刀が振り抜かれる。
慌てて木刀でガードするけど……

「なっ……?」

一瞬あとには手の中から木刀が消失していた。
しばらくしたあと、あたしの背後に、弾き飛ばされた木刀が落ちてきた。

「ま、こんなもんよ。ウチの顔面に一撃当てるなんて100年早い!」

吉澤さんが勝ち誇ったように笑う。
もしかして今までって、ものすっっっごく手加減されてたってこと?
一時は退いた怒りが、またメラメラと蘇ってきた。

「もう一回勝負たい、吉澤さん!!」
「ハハハー、かかってきやがれ!!」



◇     ◇     ◇



「さて、今日はここまでにしとこっか」
「なあっ! ズルイとよ! 勝ち逃げですか!!」
「あのなぁ、ウチは田中だけ面倒見てるわけにもいかないんだよ。3番隊だってちゃんと
指揮しなきゃなんないし、矢口さんとデートだってしなきゃならない」

「終わり終わり」というように、吉澤さんが構えを解く。
仕方ないので、あたしも木刀をおろした。

結局両手を使い出した吉澤さんにこてんぱんにされただけで終わってしまった。
うぅ……手が一本増えただけであんなに強くなるなんて詐欺たい……。

「あいたた……」

あ〜、打たれたところアザになっとる……。
よくも乙女の柔肌を……。
あぁ、もう! 絶対いつか叩きのめしてやる!!


「しっかしさぁ、田中、なんかここ数日でずいぶんとキレがよくなってきたよね」
「えっ? そうですか?」

アザをさすっていると、後ろからそんなことを言われた。

「なんか迷いがないって言うか、そんな感じがしたね」
「ふ〜ん、自分じゃよくわかりませんけど……」
「なに、もしかして守りたい女でもできたわけ? んっ? おねぇさんに訊かせてごらん?」
「……それは完全にオヤジの発言たい、吉澤さん……」

少なくとも「おねぇさん」のセリフじゃないだろ……。

「ま、冗談はおいといて、心境の変化でもあったの?」
「まぁ、ちょっと……」
「ふ〜ん……。まぁ、動きがよくなったんだからいいことだ」

あたしが言いにくそうなのを察してくれたのか、はたまた興味がないだけか。
どうにも後者っぽいんだけど、それでも吉澤さんは詳しく訊くことはなかった。
そのままパタパタと城の方へと歩いていってしまった。
とり残されたあたしも、アザになったところをさすりつつ、城に戻る。

「心境の変化、か……」

自分でもよくわからない。
確かにちょっと考えが変わったところはあったけど、それが影響を与えるとはあまり思えない。

あの時のキングイーターとの戦い。
紺野さんがキングイーターを倒したあと、あたしと絵里はまたしても新垣さんにみっちりと
説教されて。
絵里は魔力が尽きていたため新垣さんが先に連れて帰り、あたしと紺野さんは残りの
マンイーターの退治をすることになったんだけど……。

紺野さんは強かった。
あたしの手伝いなんていらないくらい。
そしてあたしが危なくなったときは、絶対に助けてくれて。

新垣さんには言わなかったけど、実はあたしも体力がもう尽きかけていた。
それでもなんとか体力を振り絞って森に残ったけど、紺野さんはそんなの見抜いてたみたいで。
あたしのために、紺野さんは一人で戦っている。
あたしは紺野さんのことを殺そうとしてるのに、紺野さんはそれをわかってて、でもそんなあたしを
気遣って、優しくしてくれる……。

それに気づいた時からあたしは紺野さんのことを嫌いではなくなった。
いや、嫌いでいることができなくなった。
飯田さんを殺したことは許せないけど、少なくとも人間的には紺野さんは嫌いでなくなった。
むしろ……

「……ってぇ!! れいなは何を考えてると!!」

ブンブンと頭を振って、考えを追い出す。
あ〜、ごちゃごちゃと考えてるうちに、いつの間にか自分の部屋の前まで帰ってきてると……。
ちょっとシャワーでも浴びて頭冷やそうかな……。
そう思って自分の部屋のドアを開けようとしたときだった。


  ドンッ!!

「えっ……?」

思わず手が止まった。
隣の部屋で爆音が響いた。
隣の部屋……すなわち紺野さんの部屋。
魔法の研究でも失敗したのかな、とも思ったけど、紺野さんは自分の部屋で魔法の研究は
しないのであって。

「紺野さん? なんかあったとですか?」

紺野さんの部屋の扉を叩いてみるけど反応が返ってこない。
扉に耳を当ててみると、中から物音が聞こえてくる。
ノブに手をかけてみるけど、鍵がかかってて開かない。
なんか胸騒ぎがした。

「紺野さん、紺野さんっ!!」

今度は思い切り扉を叩いてみるけど、相変わらず反応はない。
しょうがない……。
いったん扉から離れて、廊下の端まで下がる。

「はっ!!」

そして助走をつけて、思い切り扉を蹴破った。

「紺野さんっ!」
「た、田中ちゃん!!」

部屋の中には見知らぬ女性が立っていて。
その女性が紺野さんを壁に押しつけていた。

「何者だっ!?」

手に持ったままだった木刀をその女性に向ける。
女性はあたしのことを舐め回すようにジーッと見たけど、ある一点で視線が止まった。
あたしの左手。中指にはめられたダークブレイカー。
ニッと口が弧を描いた。

「へぇ、あんたが『闇斬りの少女』か。どんな女傑かと思っとったけど、けっこう可愛いやん」
「はぁ……!?」
「まぁせっかくや、もうちょっと様子見しとこうか」

紺野さんを押さえつけてるのと逆の手があたしのほうに向けられる。
そして次の瞬間……

「なっ!?」

腕が伸びたっ!?
鋭い爪があたしめがけて飛んでくる。

「お前、何者だっ!?」

伸びてきた腕をなんとか木刀で受けとめる。
そのまま捌き、本体へ向けて斬り込む。

「へぇ〜」

紺野さんを押さえつけている腕に向かって木刀を振り下ろす。
でも直撃する前に腕はその場を離れた。
紺野さんがずるずると床にへたり込む。

「げほっ、げほっ!」
「紺野さん、大丈夫ですか!?」
「うん、ありがと……」

とりあえずは大丈夫そうなので、あたしはまた木刀を構える。
そして床を蹴った。
アイツが何者なのかはわからない。
でも、どう見ても友好的ではないようだ。

また木刀を振り下ろす。
それも右腕で受けとめられ、すぐに左手が迫ってくる。
かわそうと思ったが、今度は左手の爪が伸びた。

「ちっ!!」

慌てて木刀で弾く。
ホントに何者なんだ、こいつは……!?
普通の人間じゃあない!

それでも今は戦うしかない。
こんなことなら真剣持ってきとけばよかった。
少し後悔しながら、それでも木刀を振っていく。

「くっ……」

反撃の隙を与えないように、連続攻撃を仕掛けていく。
一応全部上手くガードされているけど……。
ガードしすぎもよくないんだよね……。

握った木刀を振り上げる。
身体の全面を守っていた両腕が木刀に当てられて開く。

「しまった!」
「くらえっ!!」

身体をひねって回し蹴りを放つ。
完全にがら空きのボディに突き刺さった。

「くっ……なぁんだ、前情報だと剣技もたいしたことないって聞いてたのに、けっこうできるんやなぁ」
「あったりまえと!」

まぁ、しごかれてますから……。
つーか、いったいどこからそんな情報が……?


「田中ちゃん、どいて!!」

その時後ろで紺野さんの声が響いた。
振り向くと、回復した紺野さんが魔力を集めて立っていて。

「わわっ!!」
「バーニング・オーラ!!」

あたしが飛び退くと、炎の閃光が放たれた。
相手の女性を飲み込み、部屋の壁を突き破って、城の外へと消えていく。

「こ、紺野さん、室内なんだから少しは手加減してくださいよ!」
「あっ、ゴメン……」

こりゃケシズミになったかな、と魔法が消えてった方を向く。
でも、壁には大穴が開いてたけど、その前に一つの影が立っていて。

「なっ……」
「えっ……?」

紺野さんも驚いている。
それはそうだ。
女性の背中から生えた禍々しい翼が女性を包みこんでいた。


「凄いな、ここまで威力を集束させた魔法を使えるなんて」

バサッと翼が開いた。
あれだけの魔法が直撃したにもかかわらず、火傷一つ残ってない。
v 「今日は『闇斬りの少女』を確認しに来ただけやったけど、おまけに興味深い人間にも会えたわ。
まぁ、上々の成果やろ」

それだけ呟くと、女性はサッと壁の穴の前まで後退した。

「今日はもう退散するわ。またそのうち会うかも知れんけどな」

そしてその女性は穴から外へと消えていった。
あたしと紺野さんはその様子を呆然と見ていた。





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