第7話


<Chapter.3-2 滅びの唄>

――――天中街西部・訓練場

AM2:57


いまやイースト最強と名高い後藤。あまり物事を深くは考えず、
ちょっとやそっとのことじゃ物怖じしないが、彼女はかつてないほど混乱していた。

「いちーちゃん……」

「久しぶりだね、後藤。」

市井沙耶香。元護廷十番部隊・5番隊長。
後藤を鍛えたのはなにを隠そうこの市井である。
しかし中澤処刑後、誰にも理由を明かさずにイーストを去った。


「後藤さん…」

「松浦…2人きりにして。あんたは向こうにいったやつらを…」

「は、はい。(後藤さん、いつもと雰囲気が違う……)」


松浦は後藤がいつもよりも幼い感じになったような気がした。
ただならぬものを感じ、松浦は素直に従い侵入者を追って走っていく。


―――ザァァァァァ

突然の雨もお構いなしにふたりはお互いを見つめたまま動かない。
その光景はある種の美しさを伴っていた。

「いちーちゃん、どういうことか説明してよ…」

「後藤……あんたたちこそどういうつもり?
 確かに四国は敵対していたけど…罪もない人たちまで…
 カオリは…モーニングはつんくをとめようとはしなかったの!?」

「いちーちゃん…なに言ってんの……?後藤、頭悪いからわかんないよ…」

「ノースもウェストもサウスも…滅ぼされた。ものすごく
 強いバケモノとかに襲撃されて…もう……ないんだよ。」

「わかんないよっ!!わたしたちはそんなことしてない!!
 するわけない!!!」」

「後藤…でも事実は事実だ。もし後藤たちが本当にやってないなら…
 わたしだって無駄な戦いはしたくない…わたしは後藤を信じるよ?」

「うんっ、ありがとう、いちーちゃ―――
 ッ!!?あぶないっ!!」


まばゆい光の光線がふたりに向けて発せられた。
間一髪で直撃こそ避けられたものの、市井の左腕はもはや使えそうになかった。
敵は人の形をしてはいるが、とても人間とは思えない。
平家と石川を殺したモノにとてもよく似ていた。


「ぐっ…」

激痛が走り、市井の整った顔が歪む。

「よくも…よくもいちーちゃんを…」

敵はなんのためらいもなく、こっちに向かってくる。

「『覇国』っ!!」

後藤の手のひらから凝縮された霊子のビームが敵めがけて発せられた。
強力な一撃が完全に敵を捕らえたかと思われた。

「!!?」

敵も間一髪で直撃を避けたようだ。普通の人間にはとてもじゃないがかわすことすらできない
スピードだろう。しかし右腕を消し去ることはできた。
腕を消し去られても敵のスピードが落ちることはなかったが
敵は向かってはこなかった。手に持つ兵器で光を放ったかと思うと
そのまま姿をくらましてしまった。


「いちーちゃん!大丈夫!?」

「いてて…命があるだけましだよ。後藤、強くなったね」

「いちーちゃんの…おかげだよ……」

「それにしてもいまのやつ…見間違いじゃなければ…T&C部隊のルル…」


T&C(Tacit and Charge)部隊。「無言の突撃」の名のとおり、
5年前の戦争において常に先陣を切っていた部隊である。
しかしそれが災いし、信田美帆、ルル、小湊美和は死亡。生き残ったのは
稲葉貴子だけである。そのときのことがトラウマになり、稲葉は前線を離れ
隠密の道を進んだ。


「後藤、やっぱりあんたたちの知らないところでなんかが起こってるみたいだね…」


――――天中街南東部

AM3:10


「侵入者…おらへんな……梨華ちゃんとよっすぃ、大丈夫やろか…?
 それにこの雨……鬱陶しいなぁ…」

「あ、加護さん!あれは!?」

「の、のの!?」

「あいぼん!!愛ちゃん!!よかった…やっと会えた…」

「いままでどこにおったんや?連絡もせんと…心配したんやで…」

「え!?あ、それは…」


(……?なんやろ?のの…なんかいつもと…?)

「辻さん…なんかいつもとしゃべり方違いませんかねぇ?いつもはもっと舌ったらずっていうか…」

「そ、そんなことない、れ、れすよ。」

(しゃべり方だけやない。なんか…まったくの別人みたいな…)


そこにいるのは確かに辻希美だ。ずっと心配していた辻だ。
しかし加護はその辻になにか違和感を感じていた。


(気のせい…やろな…)

「あ、あの…ごめん…よく覚えてないの…」

「軽い記憶喪失になってるみたいですね。でも無事でよかった…」

「いま大変なことになってんやで…」


――――「そ、んな…」

「つらいけど…これが現実なんです…」

「落ち込んでる暇はないで?いまもみんなどっかで戦ってるはず―――」


―――ドガァァァァ!!!
そんなに遠くない場所で建物が崩れる音がした。

「!?いまのは…2人とも、いくで!!」


――――「はあっ…はあっ…くっ、うぅ…」

石川が死んで、吉澤は放心状態だった。何も考えられず、いや、
頭の中は石川のことでいっぱいだった。
石川が死んでしまったのは自分のせい。何度も自分を責め続けた。


そのせいで、敵に囲まれていることに気付かなかった。
以前天恩街を襲ったバケモノ。そんなに苦戦することなく勝った。
しかし今回は数が多い。さすがの吉澤も10匹に交代交代に攻撃されては
手も足もでなかった。

「うあああああああ!!」

それでも吉澤はみすみす殺されるようなことはしなかったし、
石川をおいて逃げるなどとも微塵も思わなかった。
満身創痍で霊帯刀を振るう。

ベキベキっ…グシャッ

「ぐぎゃあああああ」

これで4匹目。絶対不利のこの状況でよく戦っていた。
しかし、すでに意識は朦朧とし、霊帯刀をつくり出す事も困難になっていた。
戦うにはもう血を流しすぎた。

「も、もう……だ…め……」

ついには膝をついてしまった。


「よっすぃー!!『波槍』!!」
「『天風』!!」

加護と高橋の二人は図らずもバケモノの急所をついたようだ。
一瞬のうちにバケモノたちは沈黙する。

辻は少しオロオロしていたが、意を決したようにとびかかる。
刀を鞘に収めたまま柄に手を伸ばし、横一文字に振りぬいた瞬間、
バケモノは真ッ二つにされた。
刀の切れ味もさることながら、辻の剣術はいつもとは違うように感じた。
残るは三匹。


「なんや?のの。霊帯刀の出し方まで忘れたんか?ま、いいや。とどめぇ!!」

「まこっちゃん…理沙ちゃん…みてて。」

「許さない!!…れ、れす…」


三人は同時に飛び掛ったがさっきと同じようにはいかなかった。
バケモノの肌がまるでゴムのように伸びたのだ。
そういえば心なしか緑色の肌に模様が入っているようだ。

「な、なんやねん、コイツ!?」

「さっきのやつと全然違う!?」

「……ッ!!」

辻が一匹に切りかかる。狙うは頭。本来なら致命傷は確実。
しかし、ボヨンとその勢いを吸収されてしまう。

「くっ…」

続いて高橋が攻撃に移る。高橋の霊帯刀『天風』は自らの身体を霊力で
覆い、格闘をするタイプのものだった。加護のように武器を作り出す器用さは
ないが、純粋に破壊力だけを極めたものだ。その攻撃力は吉澤以上だった。
瞬時に無数の突きと蹴りを繰り出す。しかし、これもすべて弾き返されてしまった。

「あかんな…これは。」

とりあえず三人は吉澤を巻き込まないように少し離れたところに三匹を
誘導した。しかし、何度攻撃を繰り出しても同じだった。
逆に徐々にダメージを受け始めている。

「…ふたりともちょっと…」

決して頭がいいわけではないが、キレのよさはモーニングでも
一、二を争う加護が何か考えを絞りだしたようだ。

「――――と、いうわけや。一か八かやってみよう。」

「チャンスは一瞬ですね…」

「あいぼん……わたしは…」

「だいじょうぶ。うちらにはできる。絶対に。そう信じよう!」

「はい!!」「……うん…」


三人はそれぞれの敵を睨みつけると、素早い動きで敵を翻弄しだした。
しかし敵もそれについてくる。何度みてもこの巨体からは考えられない動きだ。
三人ともあからさまな攻撃はせず、ある時は敵の攻撃を甘んじて受けていることさえもあった。
時折、目で合図をし、なにかタイミングを計っているようだった。
それを何度か繰り返したあと、三人が大きく頷いた。

「いまや!!」

加護の声とともに高橋のところに集まり、敵に対して一列に並んだ。
なんと敵も同じように一列に並んでいる。加護が狙っていたのはこれだった。

高橋は脚に霊力を集中し、ありったけの力を込めていた。
加護は辻を抱きかかえ自分の足の裏に霊力を込め、防御力をあげた。
地面を蹴り上げ、辻を支えとして身体を地面に平行にした。
辻も刀を構える。

「愛ちゃんっ!!手加減すんなやぁーー!!」

「いきますっ!!」

高橋が全力で加護に蹴りをいれる。
加護と辻が一体となって、もの凄い勢いで敵に向かって飛んでいく。

「うわっ、きっつ〜…。でもこれでいい。
 いくでぇ、ののぉ!!」

今度は手に霊力を込めた加護が、辻を押し出す。
高橋と加護をカタパルトに使い、二段に加速した辻の勢いは凄まじい。
そして一列に並んだバケモノのお腹に突っ込んでいった。
三匹のお腹がはちきれそうなほどに伸びる。だが、まだ破れない。

「辻さんッ!!」「ののぉっ!!」

(わたしにはふたりみたいな霊力はない…でも、わたしにだって特別な
 力があるはず…眠ってる力があるなら、お願い!!)

「やあああああぁぁぁ!!」

そのとき、辻の刀が光り輝いた。

ピリ…ピリピリ…引き裂かれるような音が鳴る。
ピリピリ…ズバアアァァァーーー!!!

ついにバケモノたちのお腹に大きな穴が開いた。
断末魔の叫び声をあげながらバケモノは倒れた。
そしてついに事切れた。

「あいぼん、愛ちゃん!!やったよ、倒したよ!!」

「やりましたね、辻さん!!」

「やったな、のの。っとこうしてもいられんな。
 よっすぃのところに急ごう。」

――――「よっすぃ!!もう大丈夫やで!!」

「吉澤さん!!」「よっすぃ〜!!」

しかし吉澤からは返事は返ってこない。なにかをうわごとのように
つぶやいている。

「り…ちゃん……ごめ………わ…しも…そこ……い…から……」

「よっすぃ…だめだよ、逝っちゃ!!」

「………………」

「よっすぃ……ごめんね…わたしたちがもっとはやく…」

「………………」

「辻さん、加護さん……とりあえず戻りましょう…
 いつまでもこんなところじゃ…吉澤さんと石川さんがかわいそうです……」


降りしきる雨が汗も涙も…すべてを流していった。





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