第6話


<Chapter.3-1 滅びの唄>

10月27日

――――ノース市街地

「やっぱり………ここももう滅びてる…」

安倍は矢口の命をうけ、サウス、ウェストに潜入してきた。
しかし、いづれの国ももうすでに滅びていた。見渡す限りの瓦礫の山。

「どうなってるんだべ…?内乱…ってわけでもなさそうだし。
 それにしてもひとっこひとりいないなんて……」

すでに1時間は歩いただろうか。安倍はもとはノースの出身である。
しかし、かつての街の面影はない。

「なにかが起こっているのはわかってたけど…これは異常っしょ。
 急いでイーストに戻らなきゃ…」


10月29日


――――護廷十番部隊会議室

AM2:28

〈天中街北東部・兵糧庫周辺、及び西部・訓練場周辺に侵入者発見の報告
 直ちに警戒にあたれ。繰り返す―――――〉


「ま、またぁ!?カオリ、どうなってんの?」

「わたしにきかないでよ。
 ……仕方ないね。藤本、紺野は兵糧庫に向かって。」

「いいんですか?わたしたちにいかせて…まだ疑惑は晴れてませんけど?」

「事態が事態だからね。それにわたしはモーニングのみんなを信じてる。」

「………」

「とにかくいって。訓練場は…例によって後藤と松浦にいってもらいましょう。」


――――天中街南部・兵器庫

AM2:28


〈天中街北東部・兵糧庫周辺、及び西部・訓練場周辺に侵入者発見の報告
 直ちに警戒にあたれ。繰り返す―――――〉


「これは……お仲間ですか?中澤さん…」

「中澤さん…どうして……?」


侵入者撃退のために出陣した吉澤と石川は、加護、高橋とわかれて兵器庫に
向かうと中澤たちと出くわした。石川はまるで幽霊でも見たように青ざめてしまっている。


「吉澤、かわいないな〜。死んだハズの人間やで?
 せめて石川ぐらい驚いてもらえんか?」

「肝っ玉は据わってるんで。それよりも質問に答えてください。
 まだ仲間が?」

「昔の好や、正直にいうで?うちらはこの3人だけや。
 他のやつらは知らん。」

「…昔の好?ならなんで小川や新垣を殺したんですかっ!?」

「さっきもきかれたけど小川のことはほんとに知らないわ。
 それに新垣が死んだってどういうこと?」

「とぼけるなっ!!!『滅殺棍』ッ!!」

「……許せませんっ!!『炎舞扇』!」

「!?圭坊、みっちゃん、散れっ!!」


吉澤の破壊力はすでにご承知のことと思うが、戦うことを決心した石川も
なかなかのものであった。

吉澤が勢いよく霊帯刀を振り下ろすと砕けた地面が10mほど飛び上がった。
かとおもえば、石川が炎の竜巻をつくりだし容赦なく中澤たちを追い回す。



「くぅ…強烈やな。若さのパワーか?」

「ねぇさん、なんか誤解があるようやけど…」

「きいてもらえそうに…ないな。『無音』もまだ使えん。」

中澤の『無音』は霊帯刀の効果を消し去るというのは前にも言ったが、
一度使うとしばらく使うことができないというリスクもあった。
その間、およそ3時間。
 

「……ここは逃げる。ポイント39:15にはバラバラにいこ。」

「わかった、裕ちゃん」

「・・・・・・」

「みっちゃん?どないした?」



中澤の声に応じることもなく、平家の身体は力なく崩れ落ちた。
ピクリとも動かない。心臓を一突きにされ平家はすでに絶命していた。
そしてその後ろには、これほどの実力を持つ人間が集まる中、
気配を感じさせることもなく何者かが立っていた。
手にした刃に血が滴っている。



「みっちゃんっ!?くそっ、こいつはいったい…?」

「梨華ちゃん……なに?アイツ…」

「わからない。でも…生きてる感じがしない。人間の皮を被った…機械…?」

次の瞬間、ソレは猛烈な勢いで突っ込んできた。やはり人間の動きではない。
みな、かわすのが精一杯だ。


「くそっ、圭坊!!いくで!!みっちゃん……すまんっ。」

平家の遺体をそのままにしたくなかったが、中澤と保田は走り出した。


「裕ちゃん……さっきのって……」

「圭坊…気付いてたか……」

「……忘れるわけ…ないわよ。」

「自分も死んだことになってる人間やから…人のことはいえんけど……
 信田が…なぜ……?」



敵はなおも尋常ではない動きで攻撃を続ける。
吉澤と石川には反撃する暇さえない。
石川が炎の竜巻をつくりだしても敵はお構いなしに突っ込んでいく。
吉澤の大振りな攻撃では殺してくれといっているようなものだ。


どれだけの時間そうしていただろうか。
攻撃をかわし続けている2人に疲労の色がみえた。

「っあぐ!」

ついに吉澤が攻撃をかわしきれなかった。痛みによる一瞬の隙。
敵はそれを見逃さなかった。吉澤をめがけて飛んでくる。


「しまっ―――」

「よっすぃ!!」

身体が勝手に動いた。
なにも考えることができなかった。
ただ大好きな親友を守りたかったから。



―――――「梨華ちゃん!!!!?」

ふたりの動きが止まった。時の流れすら止まっているように感じた。

「梨華ちゃん!!梨華ちゃん!!梨華ちゃん!!」

石川は応えてくれない。手足がダラリと垂れ下がり、
胸からは赤く染まった刃が生えている。


「ああ……?あっ、あああああぁぁぁぁっ!!?」

力の限り叫んでも、吉澤は動けなかった。

敵は刃を引き抜くと、何事もなかったかのように闇の中へと消えていった。
石川の身体が無造作に横たわる。

「り…かちゃ……ん……。うわああああああぁぁぁ!!」

大粒の涙を流し、吉澤は泣き散らした。
これほど泣いたのは生まれて初めてだった。

いつもそばにいて、冗談をいい笑いあった。
2人でいれば会話が途切れることなどなかった。
いまもすぐそこにいるのに、何度呼びかけてもなにも返してくれない。
石川はもう、笑わない、泣かない、怒らない。
遠い世界へいってしまった。


―――ザァァァァ

いつの間にか雨が降ってきた。
それでも吉澤はそこを動こうとはしなかった。
石川の亡骸のそばに蹲り、雨にいいようにぬらされている。
いつもの彼女からは考えられないほどに、吉澤の顔からは表情が消えていた。




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