第3話


<Chapter.1-2 戦いの予兆>

10月20日

最初の事件が起こった。

謎の生物がバリアーの外の天恩街で暴れまわっているという情報が入ってきた。
門のところにはきていないので天中街、天上宮は安全であろう。
しかし、謎の生物はかなり手強く、平隊士では歯が立たないので隊長までが出向くこととなった。

現場に向けて走る影が3つ。

「やっぱり悪い予感があたったっしょ。」

安倍が独り言のように呟いた。

「え?安倍さん、なにかいいましたか?」

「ううん。なんでもないよ。よっすぃ、藤本、油断は禁物だからね。」

「………」


護廷十番部隊・九番隊長・藤本美貴
2年前までつんく直属であったが、現在はつんくの命でモーニングに所属している。
そのため他の隊長とは仲があまりよくない。


――――天恩街


「キシャアアア!!」「グルルルルル!!」「ゴガアアアア!!」

敵は3体。
鮮やかな緑色の肌は凄まじい筋肉で盛り上がっている。
眼は赤く光り、髪の毛の生えていない頭には血管が浮き出ている。
理性などはなく、ただ破壊することが生きている証であるかのようだ。


「こいつら…強すぎ。絵里、大丈夫?」

「う、うん。なんとか…」

討伐に出向いた二番、七番、九番隊はほぼ壊滅状態だった。
二番隊所属・亀井絵里、七番隊所属・田中れいな、他数名しか残っていない。
平隊士は霊帯刀をつくりだせるほどの霊力はない。そのため、普通の武器を
自分の霊力で覆うことで多少強度を増している。しかしそれは、霊帯刀に比べれば
あまりにか弱かった。加えてこのバケモノたちは動きこそ遅いものの、その攻撃力、
その生命力たるや恐るべきものであった。一隊10人が同時に攻撃してもビクともしなかった。
そしてひとり、またひとりと隊士の数は減っていった。

ブゥオン。ドガァァァ。
バケモノたちが腕を振り回すたびに街が破壊され、隊士が傷つく。

「きゃあ!!」

もう彼女たちには自分の身を守ることしかできなかった。

「!? れいな!!後ろ!!」

一瞬の油断。敵に背後をとられた。

「し、しまっ……」

しかし次の瞬間、バケモノが躊躇した。その動きで、やはり生物なのだと
実感する。もしこいつらがプログラムされたとおりに動くだけの機械なら、
田中の命はもうすでになかった。

「あ〜あ…街がメチャクチャだ。あのお店のベーグル好きだったのに…
 田中ぁ、もっとふんばんなよ。罰としてあたしの部屋の掃除だかんね。」

「……吉澤隊長………」

「まったく…やりたいほうだいしてくれたべさ。梨華ちゃんもつれてくるべきだったよ。
 亀井、無事かい?」

「は、はい。」

安倍と吉澤が無事な隊士を一箇所に集めている最中、バケモノたちは
動かなかった。いや、動けなかった。
藤本がにらみをきかせていたのだ

「………『弧月』……」

藤本の霊帯刀『弧月』はいうなれば円形のブーメランだ。
両手からなげられたそれは、弧を描きながら獲物にむかって
とんでいき、遠隔操作で敵を翻弄しながら確実にダメージを与える。

「ヒュー、いつみても鮮やかだべさ。よっすぃも少しは見習ってみたら?」

「いえ、やっぱり攻撃は一撃必殺に限りますよ。」

「みんなはそこで見ててね。後輩の参考になる戦いをするべさ、よっすぃ…って――」

「おりゃアアアア!!!『滅殺棍』!!!!」

吉澤は安倍のことはまったく無視して突っ込んでいった。

「はぁ…しょうがないなぁ。あの子は。
 っと、こうしちゃいられないべさ。『連華』!!」

安倍の霊帯刀『連華』は三節棍だ。
素早い動きで敵を突いたかと思えば、まるで意思をもっているかのような
動きで節にわかれ、惰性によって、または敵を締め付けダメージを与える。

破壊本能で動いていたバケモノたちは、もはや防衛本能で動いていた。

「逃がさないわよ!!」

吉澤が行く手を阻み、霊帯刀を振り回している。
そのせいで街の破壊が進んでいるというのはこの際おいておこう。


――――――――

勝負は割とすぐについた。思いのほか防御力が高く、苦労したが
あれだけの平隊士が攻撃してもビクともしなかったバケモノたちが肉の塊と化した。
隊長格とはかくも凄まじい霊力をもっているのだ。


「任務完了っと。二人ともお疲れ。」

「あ、お疲れ様です。」

「……………」


「ちょっとアンタ。先輩に挨拶くらいしたら?」

「…無理に仲良くする必要はないでしょ?それに実力至上主義の護廷隊にも
 力の差はあるわ。自分より格下の相手とじゃれ合ったって仕方ないじゃない。」

「どういうことだよ」

「……言ってほしいわけ?………もう帰るわ。」

「藤本、なっちのことをどう言ったってかまわないけど、ひとつだけ覚えておいて。
 ひとは一人ではどうしようもない時があるの。そんなときに助けてくれるのが仲間。」

「………」

「つんくさんがモーニングに藤本をいれたのだって考えがあってのことだと思うわ。」

何も言わずに、藤本は去っていった。

「あんにゃろ〜、前はつんくさん直属だったからって偉そうに―――」


「おつとめごくろーさん。」
いつの間にか背後に珍しい人物が立っていた。

「稲葉さん?」

「後始末はうちら隠密が引き受けたで、アンタらははよあがりぃな。」

「隠密機動隊も大変だね、あっちゃん…」

「たいしたことないで。うちはうちにできることをやるだけや。」

そういってバケモノたちの屍骸をすばやく片付けていった…

「さすがは隠密。仕事がはや〜い」

「………」

「安倍さん?どうしたんですか?」

「あのバケモノ…どこからきたんだべ…?」

「う〜ん…ノースの仕業かもしれないですよ……
 前に梨華ちゃん…ノースに潜入調査したことあったじゃないですか。
 そのとき…あやしい動きがあるって……」

「そういえばそんなこと言ってたね…」

「……………」

「ま、ここで考えてても仕方ないべさ。
 さ、わたしたちもけが人をはやく梨香ちゃんのところに………」


10月27日

――――天中街中央部・護廷十番部隊総長室


コンコン。「護廷十番部隊・副長・矢口真里。入ります。」
二代目総長・飯田 圭織に矢口は呼ばれていた。

「……? カオリ。カオリ?カオリっ!!」

「ん?ああ、矢口。どうしたの?なんか用?」

「はぁ?用があるって呼んだのはそっちでしょ?また交信してたわね。」

「ああ、そっか。そうだったよね。」

飯田はよくぼーっとしていて何を考えているかわからない。
そのくせ突然核心をつくことを言い、まわりを驚かせる。
しかし、みんなが飯田を信頼しているからこそ総長の座についている。


――――「で、なに?」

「この間の未確認生物についてなんだけど」

「ああ、うん。解剖の結果、でた?」

「それがね……科学部隊のひとたち、『我々にまかせておけ。お前たちには関係ない』だって…」

「!?どういうこと?あれだけ被害がでたのにオイラたちにはなんの説明もないの?」

「矢口、どう思う?」

「どうって……」

「みんなはノースの新型の生物兵器だと思ってる。
 でも、もしかしたら……」

そこまで言って飯田は口を噤んだ。


「……ふう、やめよう、憶測でものごとを判断するのはよくないわ、
 って昔いわれたしね。」


「そ、そうだ、一応なっちに三国の状況を見てくるように言ったから。
 ……カオリきいてる?カオリ?」

飯田の反応はない。またお得意の交信をはじめてしまったのだろうか。
しかし、その顔は普段とは違い、なにか考えごとをしているようだった。

「ねえ矢口…裕ちゃんはどうしてる?」

「は?え、や、カオリ、それは…」

「大丈夫。わたしのチカラで隠密にも、だれにも絶対に聞かれないから。」

「……そ、じゃいいか。元気に…してるよ。」



「そう…だよね。裕ちゃんだもんね。」

「どうしちゃったの?カオリ、いつも変だけど今日はさらに変だよ。」

「矢口……宇宙の彼方にすっとばすわよ?」

「うっ、ゴメン…オイラが悪かったから『銀河』だけは勘弁。」

「街にね…不穏な動きがあるって聞いたからさ。アンテナにピンときたんだ。裕ちゃんじゃないかって。
 予感がするの。きっとまた戦いが始まるんだね。」

「カオリ…。」

「そうなったら…カオリは……どうすればいいんだろう…。」



元護廷十番部隊・総長・中澤裕子。
彼女はいま、イーストをかえるために反乱軍のリーダーとして、静かにその時を待っていた。
軍といってもそんなたいそうなものではない。協力者はたったの4人しかいない。
それに戦えるのは中澤を含めて3人。あまりにも無謀な反乱にみえた。
しかし、やらないわけにはいかない。


表向き、彼女は神帝・つんくのやり方に異を唱えたために、
当時の隊長たちを見届け人として打ち首にあったことになっている。
刃をおろしたのはほかでもない現総長の飯田である。しかし、飯田の『銀河』は空間をあやつる。
刃は中澤の首ではなく空間そのものを斬った。空間のズレにより中澤は生きたまま、
まわりには首を落とされたように見せかけた。
そして死んだと思っている中澤の身体を亜空間にとばすとみせかけて、安全なところに送った。

この事実は現在のモーニング隊では飯田と矢口しか知らない。そしてそれ以来、飯田は中澤とあっていない。
いまでも連絡をとっているのは矢口だけだ。

―――イースト領・山奥の小屋

がちゃ、ギィ。
古びたドアが錆び付いた嫌な音をたてながら開いた。

「裕ちゃん…」

「おう、圭坊にみっちゃん。下らん雑念は捨ててきたか?」

「ええ、負の感情で剣をふるえば身を滅ぼす…でしょ?」

「そや。」

「…………」

「みっちゃん?」

「……大丈夫や、ねぇさん」

「よっしゃ。こっちの準備も整った。手遅れにならんうちになんとかせな。」


元護廷十番部隊・副長・保田圭、元つんく直属・平家みちよ。
彼女たちは中澤に同調してつんくのもとを離れ、隠れて暮らしていた。


「ごほっごほっ…」

「明日香、無理しちゃだめよ。」

「あやっぺ、だいじょうぶ…みんな気をつけてね…」

「ごめんね、裕ちゃん。私は…」


「明日香、あやっぺ…二人ともホンマによう働いてくれたなぁ。
 心配することないで、うちらは絶対帰ってくる。」


元護廷十番部隊・一番隊長・福田明日香。
病に倒れ、現在は安静に暮らしているが、中澤に協力してきた。

元護廷十番部隊・三番隊長・石黒彩。
中澤のよき理解者である。また、世界に名高い物理学者でもある。



「さぁ、いくで。二人とも、気ぃ引き締めていきや!!」


彼女たちはこのとき知る由もなかった。すれ違いから、かつての仲間たちと
戦うことになろうとは……。





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