第2話


<Chapter.1-1 戦いの予兆>

話は二週間ほど前に遡る。



10月15日
――――天中街中央部・二番隊長邸



「最近はすごく平和れすねぇ。5年前の戦争がうそみたいれす。」

「そうね。でもなっちは少し怖い…嵐の前の静けさっていうか…5年前と似た感じ。なにか悪い予感がするの。」

「安倍しゃん……ののはアイスが食べたいのれす。」

「……ふふっ。おやつにしよっか。」

「やった〜。あ、ハトさんれすよ。」


護廷十番部隊・一番隊長・辻希美と二番隊長・安倍なつみは仲がよかった。
辻はその性格から誰にでも愛される存在だが、特に安倍は妹のようにかわいがっていた。
そんな安倍のことが辻も大好きだった。二番隊長邸にきてはよく話をしている。

季節は秋だが縁側に注ぎ込む太陽の光があたたかい。心地よい天気だ。
ハトが一羽、青い空に吸い込まれるように飛んでいった。





5年前、この世界では大きな戦争があった。
世界の権力を握っていた政治組織・「シャ乱Q]のメンバー4人による仲たがいの結果起こったものである。
勢力的にはつんくが圧倒的であった。そのため、他をつぶすことはいつでもできるとして、
侵略はひとまずおいておかれたため、世界は4つに分断された。
(しかし現在、他の3人には政治力がなかったため、形だけの王となっているのが事実である。)

そのとき、辻は戦士ではなかった。戦争の恐怖に怯え、ふるえる日々を過ごした。
しかし、そのなかに希望の光を見た。それがつんくの守護をしていた、かつてのモーニング隊であった。

憧れた。戦争の中で彼女たちは誰よりも強く、そして優しかった。
2年後、厳しい審査を乗り越えて入隊できたときは、仲間とともに涙を流してよろこんだ。



「ののぉ〜!!こんなところにおったかぁ〜!!」

突然庭に入ってきた少女は、誰が見ても怒っているようだった。

「あっ、あいぼん。アイス一緒に食べる?」

「うわっ、安倍さんありがとう!〜っくぅ、冷たくておいしい!!ってそうだ、のの!!」

「そんなに急いでどうしたのれすか?」

「3時に道場って言っておいたやんか。なぜにこんっ!?」

「…………あっ…」

「遅いっ!!ほら、いくで。」

「でも、アイス…」

その刹那、ものすごい勢いでにらまれた。
三番隊長・加護 亜依は約束を破られるのがダイキライだった。

「ぐすっ…安倍しゃん、いってきます。」

「ふふ。怪我しないようにね。」


――――天中街西部・訓練場


「も〜おそいよぉ、のの。」

「今日こそはあたしがぶっつぶす。」

四番隊長・石川 梨華、七番隊長・吉澤 ひとみは口々に言った。

「てへへ、ごめんれす。」

辻はたいして悪いと思っている様子もなく、特徴のある八重歯をみせて
ニコッと笑った。その笑顔にはすべてを許してしまいそうな不思議な力が
あったが、長年付き合ってきた人間にはもう効くわけがなかった。


「じゃあリクエスト通りさっそく、のの対よっすぃ〜はじめっ!!」

「先手必勝。くらえぇぇぇ、『滅殺棍』!!おりゃあああああ!!!!」
はじめの合図とともに叫びながら吉澤がかかってきた。

しかし、辻はヒラリとそれをかわす。
「ちっちっちっ。力だけでは勝てませんよ〜だ。」

「へん、あたしの座右の銘は剛よく柔を断つどぁ!!!」

そう言って吉澤は辻に向かっていく。

「ギャラクティカ・クラッシュ!!」



「よっすぃ〜、ステキっ…」

「梨華ちゃん…キモイで。」

「あいぼん!!よっすぃ〜にあやまって!!」

「ちゃうって…」



「辻ぃ〜、逃げるなぁ!!」

吉澤は馬鹿の一つ覚えのように辻に襲い掛かる。
しかし、『滅殺棍』は空を斬るばかりだ。

「馬鹿だとぅ!?」

んげっ怒られた…


「今度はこっちの番れす。『紅桜』!!」

辻の声とともに桜吹雪がまう。
「くっそぉ〜」と吉澤は自身の霊帯刀をブンブン振り回している。
吉澤が疲れてきたのを見計らって、辻が一太刀。あっけなく勝負はついた。

「それまで!!」



ひとは大なり小なり霊力をもっている。それを高め、精度を増し、武器の形状にしたものが霊帯刀である。
もちろん練習試合なので、傷つかないように霊力を調節してある。
霊帯‘刀’といってもなにもすべてが刀の形をしているわけではない。辻こそ刀だが、加護は槍、
吉澤にいたってはやたらゴツイ棍棒である。つまり性格がでるということだ。

「なにぃ〜、ど・う・い・う・こ・と・だぁ〜!?」

あがぁ!!こういうことだよ…


護廷十番部隊は完全な実力至上主義だ。霊力の高いものが上に立つ。
彼女たちが若くして隊長格を担っているのはそのためである。


「よっすぃ、もっと考えないとだめれすよ。」

「辻にいわれたらおしまいだよ…」

「あと霊帯刀の名前もコワイれす。」

「だってカッケー方がいいじゃん。」

「じゃあ、あのナントカクラッシュって?」

「ん?やっぱりさ、技の名前付けたほうがカッケーって思って。
 最近つけてみた。」

「ふ〜ん。よっすぃってどうでもいいことにこだわるんれすね。」

「どうでもいいですと!?辻、あんたわかってないわね。
 いい?霊力はあたしたちのメンタル面と密接に関係してるのよ!
 つまり、名前をつけることによって愛着がわき、より一層、
 攻撃力が高まり―――――――」

吉澤があさっての方をみて力説している。
辻は眠たそうに目をこすって大きな欠伸をした。

「ちゃんと聞け!!」

――――「よっしゃ、次はうちらやで。」

「梨華ちゃん準備はいいれすか?はじめッ!!」

「は、はやっ。ま、いっか。いくでぇ、『波槍』!!」

「え?え?ちょっと待って…」

加護が斬りつけるや否や
「きゃあ〜」という悲鳴とともに崩れ落ちていく石川隊長…

「はぁ…それまでれす。」



「梨華ちゃん、これじゃ練習にならへんやんか。」

「ぐすん、だってぇ、四番隊は救護専門…」

「言い訳は見苦しいれすよ。ののたちは仮にも隊長なのれす」

「梨華ちゃんも筋トレしよ、筋トレ。」

「筋肉は関係ないよぉ」

「なに言ってんの。健全な身体に宿る健全な魂っていうでしょ?」

「肌の色だけは黒くて健康そうやのにね。うちはやいても赤くなるだけやからうらやましいわ〜。」

「ぐす、これは地黒だもん」


この4人は同期のため一緒に行動することが多い。このコントのような練習試合はいつものことだ。
いざというときに戦わなければいけない立場にあるのはわかっている。
モーニング隊とはそのための組織であると。
だからこそ、いつまでもこの平和が続くことをみな願っていた。






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