第41話


味方のMSが破壊される。
敵のMSもが巨大な閃光を放って消滅する。

数多くの味方に混じって、後藤もただ一人奮戦していた。
この戦いが始まった当初、圧倒的に戦局を有利に運んでいたジオン軍だったが
ある一時を境に連邦軍が有利な状態になっていた。
彼女達にその理由は分からなかったが、それは事実であった。

しかし例え戦局が有利になっても、
彼女が一人で奮戦している事実に換わりは無い。
確かに数多くの味方MSも頑張っているものの、
彼女ほどの活躍を期待するのは酷であった。

そんな乱戦の中、後藤は敵に向かってトリガーを押し敵を破壊し、
操縦桿を押し込みペダルを踏み込んで敵弾を避ける

「みんな・・。無事に帰れたかな・・。

『ごっちん。他人のことより自分の心配せいや。』

どこからとも無く声が聞こえてくる。

後藤は咄嗟にペダルを踏み込みつつ、操縦桿を引き付ける。
瞬間、彼女の体を凄まじいGが襲い掛かる。
後藤が歯を食いしばってそのGに耐えると、
ほんの1秒前に彼女が存在していた宙域を
煙を吐きつつ流れ飛んできた弾丸が空を切った。

「そんな簡単にはやられないよ!」

そのままペダルを踏み込んで一気に敵に向かって突っ込むと
彼女のモニター正面に先程彼女に向かって弾丸を放った敵機が
すっと滑り込むように入ってくる。

「いただき・・。」

操縦桿の先に付いているトリガーを押し込むと
正確にビームが一閃し、敵機が消し飛ぶ。

『ごっちん!来るで!奴や!』

後藤の頭脳にいつもの声が響き渡る。
そして彼女の視線の先に存在しているのは
彼女達が忘れもしない、寄って集っても倒せなかった、あの青いMS。

「あいつだ・・。」

彼女が見ている目の前で、あたかも見せ付けるかのように
味方のMSを次々破壊していく青いMS。

『ごっちん。大丈夫や。うちが着いてる。』

「うん!」

後藤は元気そうに声を上げると、その敵の部隊に突っ込んでいった。

敵の1機が彼女の接近に気づいたのか、
彼女の方を振り向くと、マシンガンを連射する。
後藤はその弾丸を左右に横滑りしながら回避すると、
瞬時に上昇に入る。
彼女のその動作があまりに急であった為か、
敵機は追従する事が出来なかった。
その隙を見て、後藤は敵機にビームを撃ち込む。
この日、何機目だか分からない彼女の戦果。

そんな後藤を、容易ならん敵と悟ったのか、
敵部隊の指揮官とも言うべき、青いMSが彼女の正面に出てくる。

「・・・来た・・・。」

後藤はその敵機が持つ、細長いライフルから放たれたビームを
すんでのところで回避した。

『ごっちん・・。』
「大丈夫!見えるよ!」

後藤はその問いかけとも言える言葉に、健気に返事をする。
中澤達が全員で襲い掛かっても倒せなかった敵。
そんな敵を相手にするのに少しばかりの不安が無いと言えば嘘になるが
今、彼女には心強い味方がいた。
現にここに存在しているわけではないが、
心の中に、そして彼女の近くに『それ』は存在する。

『ごっちん。気をつけや。』

「うん!」

後藤は操縦桿の先に付いている60mmバルカンの発射ボタンを押す。
機体を通じて軽い衝撃が後藤に伝わり、
弾丸が正確に発射していることを認識する。

射線は誤る事無く敵機に命中した。
青いMSの機体の方から胸のあたりにかけて
炸裂弾頭を装備した弾丸がいくつか火花を散らす。
しかし、それは機体の塗装を幾分か剥がし
表面に僅かに傷をつけたに過ぎなかった。

「まあ、そんな簡単にいかないか・・・。」

強力な敵機と戦っている実感は後藤には無かった。
付近の味方機が功に早って返り討ちにあうなか、
彼女は冷静に敵機に対処している。

あの青い指揮官機を排除しなければ、
この付近の連邦軍の戦線は崩壊してしまう。
後藤は冷静に分析していた。
もしこの戦線を突破されれば、先程離脱を図った
飯田達の部隊が全速で追撃を受け、ともすれば彼女達が危ない。
もちろん彼女達の母艦でもあるゼティマにも危機が迫るであろう。

「あれを・・、倒さないと。」

近付きつつ、敵の指揮官機目指してライフルを連射するが、
敵はあたかも後藤の行動を読んでいるかのように
右に左にと簡単に回避する。

「もう・・・・!」

次第に後藤もいらつき始めていた。

思い切って突っ込んでいった後藤に対して
付近にいた側近と思しき敵機が、後藤に向かってくる。

「じゃまだよ。」

そんな敵機を後藤はいとも簡単にライフルの連射で排除する。
この時になって、ようやく敵の指揮官機が
彼女が容易ならぬ敵と認識したのか後藤に向かってくる。

「来た・・。」

後藤と敵の指揮官機と壮絶な一騎打ちが始まった。

後藤がトリガーを押し込んでライフルを放つ。
一方、青いゲルググもビームを迸らせる。
時には接近し、両者のサーベルがぶつかり合って火花を散らす。

後藤が振り下ろしたサーベルを
シールドで弾き返すと、そのままシールドで後藤の機体を弾き飛ばす。
華奢な後藤の機体は、その勢いで跳ね飛ばされる。

「きゃん!」
強烈な衝撃が後藤を襲い、シートベルトが否応無く彼女の体を締め上げる。

敵機はそのまま後藤の機体に接近し、
サーベルを振り上げる。

「まだ・・!!」

彼女はペダルを踏み込むみつつ、
敵機に向かってバルカンを連射して牽制すると
フルブーストで一旦敵機から遠ざかる。

いつしか敵味方とも彼女達の戦いに見入っていしまっていた。

再び2機の間でビームの浪費とも言える応酬が始まる。
両機ともバーニアを全開にして
互いのビームをかわしつつ、お互いにビームを撃ち合う。
2機の戦いはこのまま永久に続くかのように思われた。

均衡が破れたのは横合いから放たれた一筋のビームだった。
後藤に集中していた敵機に対して
味方のGMが接近しつつビームを放ったのだ。

今なら敵の指揮官機を倒せると思ったのかもしれない。
その考えは間違っていなかったかもしれない。
ただ、その味方のGMのパイロットには
それだけの腕前が無かった。 そして運も無かった。
不用意にビームを放って接近したGMが
指揮官機である青いゲルググのサーベルに真っ二つに切断される。

『ごっちん!!』
「うん!分かってる!」

一瞬の隙であった。
しかし後藤にはそれで充分だった。
後藤のトリガーを押すと、一筋のビームが迸り、
青いゲルググの右腕をビームライフルごと吹き飛ばす。

「当たった!!」

中澤や保田達が寄って集って傷をつけることが出来なかった敵機を
後藤が撃破することに成功した。

この時後藤がこの青いゲルググに止めをさせなかったのは
付近の敵機が指揮官機を守るべく集まり、
また連邦軍のMS部隊も殺到してしまった為に
混戦状態に陥り、青いゲルググが何時の間にか戦場から
姿を消してしまった為であった。

もしこの時後藤が止めを指すことに成功していたならば
後の歴史が大きく変わっていたかもしれない。


後藤が敵機と壮絶な戦闘をしていた頃、
Nフィールドと呼ばれる戦域から
ア・バオア・クー宙域に侵入したゼティマを始めとした連邦軍艦隊は
ジオン軍の猛烈な迎撃により、すでに半数近い艦艇を撃沈されていた。
残った艦艇も無傷な艦は一隻も無く、
すべての艦は爆炎に撫でられた無残な姿をさらしている。
それはゼティマとて例外ではなく、
主砲搭や高角砲等、三分の一が破壊されて
戦闘能力は激減していた。

「左舷ムサイ級巡洋艦!発砲しました!」

戦闘艦橋の中でオペレーターの前田の悲鳴が響き渡る。
数秒後、激しい振動と衝撃がゼティマを襲い
立っていた者はもちろんのこと、座っていた者まで
吹き飛ばされて全身を強打する。

「上部1番砲塔使用不能!」

ムサイ級巡洋艦の放ったメガ粒子砲は
誤る事無くゼティマの艦首にある主砲搭に命中し
強烈な閃光と破片を撒き散らした。
爆炎が去った後には、2つの砲身はすでに消え去っており
ささくれ立った竹のような残骸が、
砲身がかつてそこに存在したことを物語っている。

「くそっ!反撃や!目標左舷のムサイ!」
寺田は舌打ちをしたが、それで状況が改善するわけではない。
矢継ぎ早に命令を出して反撃の体制をとる。

上部と左舷にある砲塔がそれぞれ目標を定めてゆっくりと旋回する。
わずか数秒の時間ではあったが、それが寺田には数時間にも感じた。

「まだか?!」
「照準OKです!」
「撃て!」

前田の返事が聞こえるや否や、寺田の怒号が艦橋に響き渡った。

太い砲身から迸ったビームは、一直線に誤る事無くムサイを捕らえた。
まず最初に命中した一弾が、背負式に配置された主砲搭をごっそりと削ぎ落とし
吹き上がった破片が艦橋を襲う。
続いて命中したビームは後部のエンジンを直撃し、
艦の動力源である核パルスエンジンを吹き飛ばした。

「目標沈黙。」

艦橋内に安堵のため息が広がっていく。
そしてこれがゼティマがこの戦いに上げた最後の戦果となった。




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