第40話


「そ!そんな事できるわけ無いでしょ!!!」

真っ先に反応したのは当然のことながら飯田であった。
確かにこれまでの戦い振りを見れば、後藤をこの場に残して
殿軍とすれば全員が逃げきれるに充分の時間を稼いでくれるであろう。
しかし、例え味方のMS部隊が付近にいるとは言え、
彼女一人で戦わせるには、あまりに酷ではないかと飯田は思う。
できれば後藤と一緒に自分も残り、時間を稼ぎたいが、
何ぶんにもコクピットには安倍を収容しており
満足に戦える状況ではない。
彼女を別の機体に、例えば加護や辻の機体に収容する手もあるが
そんな暇があるとは思えなかった。

「それ以外に何か良い方法がある?」
「・・。」

後藤の指摘に飯田は答えられなかった。

「うちと・・、ののも残ります!!」
「そうれす!ののも残ります!」

それ以上の会話が続かない飯田と後藤の間に入って
加護が突然大声を上げた。
そしてそれに追従するかのように辻も口を開く。

そんな二人を見ると、彼女達も数多くの戦いを経験して
一端のパイロットになった事を改めて認識し
飯田はこんな状況におかれているにもかかわらず、
ついつい頬が緩んでしまう。

「だめだよ。」

後藤も飯田と同様の心境なのか、優しい口調で諭すように言った。

「何でですか?!」
「そうれす。何でれすか!?」

「だって、他のみんなは満足に戦える状態じゃないんだよ。
 もしゼティマに帰る途中に敵に襲われたら、誰が皆を守るの?」

「・・・。」

後藤の指摘は的確だった。
確かにここに戦えるメンバーが残ったならば
他のメンバーを護衛する者がいなくなってしまう。
下手をすると、帰還するメンバーと、
この場に残るメンバー両方の全滅の恐れさえあった。
ならば、最終的な手段は一つしかない。

「大丈夫。ここはゴトウに任せて。」

全員が黙り込んでしまった。
もしかすると、後藤の命と引き換えに
自分達が生き残ることとなる。


「後藤・・。危なくなったら逃げるんだよ・・。」

飯田の言葉が最終的にその場の会話を決定付けることとなった。

「決まったね・・・。」

保田が力なく呟いた。
彼女とて後藤一人をこの場に残して撤退するなど、
本当ならば彼女のプライドが許さない。
ましてや敵は、彼女にとっての宿敵とも言える青いゲルググ。
戦いたいのは山々であったが、この状況ではどうにもならなかった。

「みんな。気をつけてね。」
「それはこっちのセリフだよ!」

微笑みながら言う後藤に、半ば本気で保田は怒っていた。
全員が後藤の心配をしているのに、
彼女の方から心配するようなセリフを吐くとは。

「・・礼は言わないよ。ごっちんが生きて帰ってきたら言ってやるよ。」
「圭ちゃん・・。」

「さあ!圭織!時間が無いよ!」

保田の言うとおり、敵は目前まで迫っていた。

「行くよ、みんな。」
「はい・・。」
「わかったよ・・。」

リーダー飯田の命令に力なく全員が答える。
しかしながら全員がその場を離れようとしない。


迫り来る青いゲルググが率いる部隊が、味方のMS部隊と激突した。
連邦側は数が多いにもかかわらず、
優秀かつ勇敢な指揮官に率いられた敵側のMSに圧倒されている。
早々にも先頭に飛び出したボールに
バズーカの弾丸が直撃して爆発四散する。
GMの射撃をあっさりとかわし、薙刀状のサーベルを叩きつける青いゲルググ。
今にも彼女達に戦線が飛び火しそうな勢いであった。

「時間が無いよ!早く!」

後藤は叫びながら、味方のMS部隊を突破して迫るザクに対して
ライフルを放って撃墜する。

「後藤・・。ごめん!行くよ!」

飯田達は出発した。
後藤を一人残して。

「ごめんね・・。なっちが不甲斐ないばかりに・・。」

安倍は思う。 もし自分が被弾して負傷していなければ、
後藤を一人で戦場に残すことなどしなかったのに。
安倍の流した涙は、決して負傷の痛みから来る物ではなかった。

「それは・・。カオリも同じ心境だよ・・。」

もし中澤がまだ生きていたならば、この状況をどのように解決したであろうか?
『飯田は飯田のやり方でやればいい』
寺田が言った言葉が頭の中で響き渡る。
自分のやり方は果たして正しかったのであろうか?
中澤から受け継いだこの部隊を満足に機能させることが出来たのであろうか?
彼女の頭の中で数多くの疑問が沸いて起こる。

戦争であるからには犠牲は付き物だ。
事実彼女も多くの仲間を失ってきた。中澤や福田を始めとして・・。

「カオリは・・、リーダー失格なのかな・・・。」

「そんなことないべ。圭織は立派に戦ってるよ。」

飯田の独り言が聞こえていたのか、安倍が力なく言った。

「ありがとう・・。ありがとう。なっち・・。」

飯田の瞳からは、とめどなく涙が溢れてくる。
理由は分からないが、涙が止まらない。

「なっちありがとう・・・。」

彼女は、ただひたすらその言葉を繰り返していた。


「なあ。のの。」
「なんれすか?」

次第に遠ざかり、数多くの光点の一つとなりつつある後藤の機体を見ながら
加護が辻に話し掛ける。

「うちには、後藤さんが中澤さんとダブって見える・・。」

すでに戦死してこの世にいないはずの中澤であるにもかかわらず
加護には、何故か彼女が近くにいるような気がしてならなかった。
特に後藤と一緒に。
理由は分からない。ただなんとなくそんな感じがしていた。

「中澤さんは、後藤さんと一緒れすよ。」
「どういう意味や?」

辻の思わぬ返答に、彼女は自分から中澤の事を言い出したにもかかわらず
不思議そうな顔をしている。

「中澤さんは、いつものの達と一緒れすよ。」
「そうか・・。」

理屈ではなく、辻にはそのような感じがしていた。
別に彼女から中澤が見えるわけではない。
それでも彼女は感じていた。
中澤の存在を。

だからこそ後藤は戦えるのであろう。
一時中澤を失って以来、廃人と化していた後藤に何があったかは分からないが
その彼女が今、ここで自分達を守って戦っている。

「やっぱり中澤さんなのかな・・。」

感謝すると共に、少しばかりの嫉妬心が沸き起こってしまう加護だった。

「みんな、無事に逃げれたみたいだね・・。」

後藤は去り行く5つの光点を見ながら呟いた。
寂しい気持ちが無いと言えば嘘になるかもしれない。
もしかするとこの別れが永遠の別れになるかもしれないにもかかわらず。

例えほんの2ヶ月程度共にいただけかもしれないメンバー。
それでもこの2ヶ月は、一緒に生死を共にした仲間達だ。

『ごっちん。元気出しや。』

何処からともなく聞こえてくる声。
彼女に勇気を与えてくれる声。

「うん・・。」
彼女は一人ではなかった。
その声で一気に気持ちが引き締まる。

「ここから・・・、ここから1機も通さないよ!!」

撤退しつつある飯田達を追撃しようとしているのか
3機編隊のザクが彼女達が撤退していった方向に向かって突き進む。

「通さないって言ってるでしょ!」

後藤はスロットルを折れよと言わんばかりに叩きつけると
出しうる最大の速力で敵を追う。
1機のザクを正確無比な射撃で撃ち落す。
すると残る2機が彼女の存在に気づいたのか、方向を変えて後藤に迫る。

連射されるマシンガンの弾丸を、いともあっさりと避けると
猛スピードで接近し、1機のザクにサーベルを突き立てた。

僚機を落されて激怒しているのか、
無謀にも残りの1機が接近戦を挑んでくるが、
後藤は機体の頭部に装備されている60mmのバルカン砲で迎え撃った。
ザクの機体にバルカン砲の弾丸が炸裂し
機体のあちこちに火花が散る。

「無駄なんだよ・・。」

『ごっちん!上!』

後藤の隙を狙ったつもりなのか、
彼女の上方より1機のリックドムがバズーカを放つが、
何故か後藤には敵の動きがスローモーションのようにゆっくりと見えた。

「うん!見えるよ!裕ちゃん。」

余裕の表情で敵の攻撃を避け、返す刀で敵を撃ち落す。

『まだまだ来るで!ごっちん!』

「うん!大丈夫!」

後藤は微笑んでいた。
別に彼女は戦うことに喜びを感じているわけではない。
ただ、彼女にとって大事な人が近くにいてくれる。
大事な人が近くで彼女を守ってくれている。
それが嬉しかった。




BACK   NEXT