第3話


「圭ちゃんはどう思う?」
「え?新メンバーのこと?」
「うん。」
新メンバーと別れた保田と矢口は喫茶室でくつろいでいた。
「う〜ん・・。そうだね〜。」

保田は席を立つとコーヒーの自販機に向かって歩きながら答えた。
「あたしの場合、石川が相手だけど、まあ、センスはあるんじゃん?」
「へ〜。辛口圭ちゃんのお墨付き?」
矢口の冷やかす言葉をわざと無視すると、
保田はポケットからカードを出して、自販機に入れ、ボタンを押した。
5秒程度でドリップが終わったコーヒーを、保田は自販機から取り出した。
それを矢口に向かって「いる?」と、ジェスチャーをする。
それに対して矢口は首を横に振った。

コーヒーを手に再び席に座った保田は、
「ふ〜」っとコーヒーを冷ますと、コーヒーをすすった。

「あたしの相手はよっすぃ〜・・、吉澤なんだけどね・・。」
「何?あんたもうあだ名で呼んでるの?」
「うん。いいね〜。よっすぃ〜。タイプだね〜♪」
「はぁ?何言ってんの?」
「だって、かっこいいじゃん♪」
「いや・・、そう言う問題じゃないけどね・・・。」

「そうそう、本題に戻すけど、よっすぃ〜はまあまあだね。」
「どうよ?」
「そうだね〜・・。」
矢口はテーブルの腕で両腕を組むと、そこに顔をうずめる。

「センスはあるよ。まあ、あとは経験でしょ?」
「それを言ったら石川も一緒だよ。」
「そうだね〜。まあ、明日から特訓だよ。」
「そうだね。」
「いずれにしても、今のままじゃ、初陣で帰ってこなくなっちゃうよ。」
冗談ではなく、実際に両軍共に初陣で還ってこないパイロットは多数に上っている。
特に最近は連邦軍も使い慣れないMSを投入しているため、苦戦をしている。
一方のジオン軍も、開戦当初のベテランが減りつつあり
若年者のパイロットが増えている。

「もう仲間が死ぬのは見たくないからね・・。」
「そうだね。『死神』とか呼ばれたくないしね。」
「ああ、そんな人いたね・・。」
結局、二人の結論は今日はゆっくり休んで明日からの特訓に備えよう
ということになり、部屋に帰って休むことにした。

その頃中澤は夕飯までの時間を持て余していた。
ゆっくりと自分のベットに腰掛けると、冷蔵庫から取り出したビールを開ける。
プシュっと心地よい音がすると、泡が溢れ出してくる。
中澤は缶に口をつけると、一気に半分ほど飲み干した。
まだ湿っている頭にタオルを乗せ、くしゃくしゃと乱暴に拭く。

「ぷはぁ〜。ひとっ風呂浴びた後の一杯は最高やね。」
中澤は自分の肩に掛けていたバスタオルを体に巻きつける。
そして立ち上がろうとした時、『トントン』とドアが鳴った。
「ん?誰やろ?」

「後藤です。よろしいですか?」
ドアの外から後藤の声がする。

「一人か〜?」
「はい。」
「ええで・・。ちょっと待ってや、今開けるから・・。」
ドアの外の後藤と会話をしながら、中澤はドアまで行ってボタンを押した。

「どうぞ。」
後藤を中に入れる。
「ありがとうございます・・・。あっ!す、すいません。」
後藤は中澤の格好を見て驚いた。
なにしろ中澤はバスタオル一枚の格好をしている。

「ええで。気にせんといて。」
ドアが自動的に閉まるったのを確認すると、中澤は再び自分のベットに座り込んだ。
「まあ、座りなよ。」
中澤は自分のベットをポンポンと叩いて、後藤を自分の隣に座らせた。

「お、おじゃまします。」
「まあそんなに緊張するなよ。」
「は、はあ・・。」

「いる?」
中澤は缶ビールを後藤に向かって掲げた。
「あ、はい。頂きます。」
後藤の返事も満足に聞かないうちに中澤は立ち上がると
冷蔵庫から缶ビールを一本取り出す。

「ありがとうございます。でもあたし、まだ未成年ですけど・・。」
「え〜やん。かまわへんて。大人と同じ仕事してるんや。かまわんかまわん。」
「そ、そうですか・・。じゃあ・・。」
そう言うと後藤は缶ビールのプルタブを開ける。
プシュっと乾いた小気味いい音。

「じゃあ、乾杯やな。」
「はい。かんぱ〜い。」
コン、と二つの缶ビールがぶつかり合う音がした。

後藤は噴出す泡に口をつけると、一気に飲み干す。
「なんや・・。未成年とか言っといて、よ〜飲むやん。」
「えへへへ。」

「ところで、中澤さん・・・。」
「ああ、裕ちゃんでええよ。みんなそう呼んでるし。」
「え、いいんですか・・・?じゃあ後藤のことも、ごっちんって呼んでください。」
「ごっちん?」
「はい。みんなそう呼んでます。」
「そうか・・。じゃあ、ごっちん。」
「へへへ。」
後藤は缶ビールを持っていない方の手で頭を掻いた。

「中・・、裕ちゃん。あたし憧れてたんですよ〜。」
「そうか、ありがとな。」
「な〜んだ、素っ気無いな〜・・。えへへへ。」
『ん・・。なんや?この子、もう酔っ払ってるん?』

「かっこいいですよね〜。裕ちゃん。」
「あ、あ、ありがとうな。」
「えへへへへ。」
中澤は段々後藤が自分の方に擦り寄ってくるのに気づいた。
『あれ・・?なんや?この子?』

「あたしも何時かは裕ちゃんみたくエースパイロットになりたかったんですよ〜。」
「ご、ごっちんは今までどれくらい撃破してきたん?」
「え〜と・・。まだザクを4機ほどです。」
「すごいやん!」
中澤は正直驚いた。
先ほどの対戦訓練でも動きが確かに良かった。
しかし、あまりやる気無さそうな表情、
そして、パイロットには不釣合いな顔。
にもかかわらず、後藤はもう少しでエースの称号を得られるほどのパイロットだった。

「えへへ。でも裕ちゃんほどじゃないです。」
後藤は段々中澤に近寄る。
「い、いや・・。まあ・・。」
アルコールには弱いのか、ビール一本ですっかり酔っ払ってしまっている後藤。
顔を赤らめながら中澤に寄り添ってくる。

後藤は突然、自分の缶ビールをテーブルの上に置くと、
中澤に抱きついてきた。
「わ〜い!」
「ひえ〜〜!!」
どすん!と言う音と共に中澤は後藤によってベットに押し倒されていた。

実戦は数多く経験している。
人の死も多く見てきた。そのため、ちょっとの事では驚かない中澤も
さすがに後藤の行動と大胆さには面食らった。
まさか自分より年下に、しかも酔っ払った女の子に押し倒されるとは・・。

「こら!ごっちん・・・・?」
危うく自分のビールをベットに、ぶちまけそうになった中澤は、
後藤を押しのけようと後藤の肩に手をかけて、そして気づいた。
「寝とる・・・・。」

「zzz・・・zz・・。」
「なんや、この子・・・。変わっとる子やね・・。」
中澤の顔に掛かった後藤の長い髪の毛から
シャンプーの匂いがする。
中澤は、理由は分からないが可笑しかった。
「・・・。」
後藤の頭を軽くなでる。

「うちも丸くなったな・・。まあええか、この子可愛いし・・・。」
そう言いつつ、中澤もほろ酔いかげんのアルコールと
後藤の心地よさそうな寝息と共に段々と記憶が薄れていった。

「先ほどはすいませんでした・・。」
「ええって、気にせんといて。」
「でも・・。」
「ええよ。ごっちんの可愛い寝顔も見れたし。」
「・・・。」
喧騒に包まれる士官食堂。
夕食の時間に起きた二人は、揃って士官食堂で夕食を取っていた。

「あれ〜・・・?裕ちゃんと後藤だ・・。」
その二人に気づいたのは、安倍と飯田だった。
二人はシャワーを浴びた後、揃って夕食に来たのだ。

「デート中、ごめんなさいね〜。」
「おじゃまかな〜?」
パン、シチュー、ポテトサラダ等の乗ったプレートを
中澤たちが座ってるテーブルに置くと、安倍と飯田は、
それぞれ中澤と後藤の隣に腰掛けた。
「なんや〜。なっちに圭織かいな・・。今ええとこやから、邪魔せんといてや〜。」
「え〜!裕ちゃんと後藤ってそういう仲なの!?」
「今日会ったばっかりなのに・・。
さすが裕ちゃんだね。上手いのはMSの操縦だけじゃないね。」
二人の抗議とも冷やかしとも取れる言葉を聞いた後藤は声を荒げる。
「そ!そんなんじゃありませんよ!」
「冗談だって♪」
「あははは。なっち妬いちゃうべさ〜♪」
飯田と安倍は、そんな後藤を笑って流した。

「ところでさ、裕ちゃん聞いた?オデッサの戦いのこと。」
安倍が先ほどとは打って変わってまじめな表情で口を開いた。
「え?どうなったん?まだうち聞いとらんで。」
「連邦軍が勝ったらしいよ。ついさっき噂を聞いたんだ。」
安倍は胸をそらして自慢気に言う。
「へ〜。よく勝てたね。」

オデッサは東部ヨーロッパにある資源地帯で、ジオン軍の地上拠点である。
ここを奪取するのは連邦軍の最優先目標だった。
事実、連邦軍は少数ながら本格的にMS部隊を投入している。

「やっぱMSの力かいな?」
「そうでしょ?最新型とか優秀なMSが投入されたらしいし。」
「ええな〜。最新型。うちも欲しいわ・・。」
中澤は自分の嫌いなトマトをフォークで突付きながら言う。
「また裕ちゃんの欲しい病が始まったよ・・。」

「RX-79G陸戦型ガンダムでしたっけ?あたし見ましたよ。」
中澤、飯田、安倍のやり取りをじっと聞いていた後藤が口を挟んだ。
「まじ?!うちらもまだ見たこと無いのに!」
「はい。アジア地区にいましたから。」
「乗った?乗った?」
興味津々の安倍が尋ねる。
「ええ。少し。あれ乗ったらGM乗れませんよ・・。」
「乗っるやん・・。もう知らん!ごっちんなんて知らん!」
「あ〜ん!ごめんなさぁ〜い。」
そんな後藤と中澤のやり取りを微笑ましく見る飯田と安倍だった。





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