第23話


そのころ、別行動中だったメンバーも苦戦を強いられていた。
加護と辻の搭乗するGMスナイパーは、ビームサーベルを持っているとは言え、
巨大なスナイパーライフルを所持しているため、
格闘戦は不向きである。もちろんスナイパーライフルを
破棄してしまえば、通常のGMより高い機動性と装甲を持って
高い格闘戦性能を発揮できる。
しかし、それではスナイパーの意味がなくなってしまう。
それを敵は悟っているのか、集中的に辻と加護に格闘戦を挑んでくる。

「こ、こっちくるなぁ〜!!」
加護が必死にスナイパーライフルを振り回す。
シートの頭部右側にある狙撃用のスコープを出し、
狙いを定めようとするが、敵が機動力を生かし狙いをつけさせない。
「くそぉ!!」
加護は右手で狙撃用スコープを払いのける。
「ライフルが・・。」
その隙を突いて一機のザクが高速で迫ると、
ヒートホークを振り上げる。

「あかん!!!」
必死にシールドを用いて防御しようとした。
加護の機体に衝撃が走る。

『やられた!?』
そう思った加護だったが、正面のモニターを見て驚いた。
正面のザクの頭部に折れ曲がったスナイパーライフルが激突している。
そのライフルの手元を視線で追うと、
辻のGMスナイパーが、剣道の『面』のように、ライフルを叩きつけていた。

「あいちゃん。だいじょうぶれすか?てへてへ。」
加護のコクピットのサブスクリーンに、
照れ笑いしている辻が写っている。

「あんがと・・。のの・・、って!ライフル壊しとるやん!!」
「ライフルより、あいちゃんのほうがだいじれす。」
「・・・。あんがと・・。」
辻の咄嗟の機転により、頭部を破壊されたザクが
火花を散らしながら彼女達から遠ざかっていく。

動きの止まった二人を見て、一機のリックドムが
ヒートサーベルを振りかざし迫る。

辻は、そのリックドムのヒートサーベルを持った右腕ごと、
シールドで跳ね返すと、サーベルを抜き取り、
リックドムの胴体を切断する。巨大な閃光が走り、爆発する。
この時の辻の動きは、寸分の無駄も無い動きだった。

「のの・・。あんたいつの間にそんなに上手く・・。」
「ののは、にゅーたいぷれすから。てへてへ。」
「はぁ?!」
「もう武器が、サーベルしかなくなってしまったのれす。」
「それは困ったな・・。あれ使うのは、どうや?」
加護が指差したのは、破壊されたGMの右手に残っているビームスプレーガン。

「あれれすか?いいれすね。」
辻はそう言うと、自分の機体を破壊されたGMに近づけ、
その右手からビームスプレーガンを取った。
「ごめんなさいれすね・・。もらうのれす。」

本来中距離支援用のMSであるGMスナイパーを援護するために、
石川と吉澤は、辻と加護の護衛を任されていた。
しかしながら、彼女達も自分達を守るのに精一杯だった。

「よっすぃ〜!!そっち行ったよ!!」
「分かってるって!!」
石川の甲高い声に、少しばかり苛ついたように返事をする吉澤。
彼女は、マシンガンを連射しつつ突っ込んでくるザクを
シールドで防御しつつかわすと、すれ違いざまにロックオンし、
ライフルを放つ。
「落ちろって!!」
ビームが命中したザクが、大爆発を起こす。
「ふぅ〜・・。」

一方の石川は、リックドムに襲われている。
半ば逃げ回っている状態の石川に、業を煮やしたのか
一機のリックドムが、ジャイアントバズーカを放り出し
ヒートサーベルを抜き放つと、石川に迫る。
「きゃぁぁ〜〜!!」
その音自体が、超音波の兵器になるのではないかと思われるほどに
甲高い悲鳴を上げつつ、シールドでサーベルを弾き返す。
「このっ!このっ!!」
石川が左の操縦桿の親指部分にあるトリガーを押すと
頭部にある60mmバルカンが唸りを上げて、リックドムの頭部を破壊する。

「はぁはぁ・・。」
肩で息をする石川。
数度の実戦で、確実に彼女達の実力は上がっていた。

「よっすぃ〜。あいぼんたちは?」
少しばかり加護と辻と離れてしまった石川は
二人を心配して吉澤に話し掛ける。

「ちょっとまって・・。いたいた!!」
本来なら彼女達は二人を護衛しなければならないのだが、
いくら彼女達の腕前が確実に上昇しつつあっても、
編隊戦闘には未だなれていない。

「のの!あいぼん!!」
二人を見つけることが出来た吉澤が
石川を引き連れて合流する。

「大丈夫?二人共?」
心配した石川が二人に声をかける。
「大丈夫屋で〜。」
「だいじょうぶれす。」
気丈にも、二人は笑顔で返事をする。
護衛をないがしろにされたにもかかわらず、二人は笑顔だ。

「お〜い!!集結や!!」
中澤からの合流命令が掛かったのは丁度その時だった。

「よっしゃ。みんな揃ったな?怪我とかしてる奴はおらんね?」
「は〜い。」
「おっけーです。」

中澤達は敵の第一線からやや後退して、
戦力の再編を図るつもりもあり、一旦全員に集合をかけた。

「あれ?辻?どうしたの?それ。」
辻の教育係でもあった飯田が、
辻の機体を見て、彼女がスナイパーライフルではなく、
ビームスプレーガンを持っていることに気づいた。

「なくしてしまったのれす。てへてへ。」
「だめだよ!辻!武器無くしちゃ!」
ニコニコしている辻に、事情も知らずに飯田が叱っている。

「のの・・!それは!」
加護が、辻がライフルを無くした事情を話そうと
二人の会話に入り込もうとした。

「あいちゃん。いいのれす。」
辻が加護の言葉を遮る。
「のの・・・。」
「そのかわり、あとで、やきそばおごってもらうれす。」
「・・・。」

「さて。みんなOKやな。そんならもう一度突っ込むで!」
中澤がそう言った時だった。

上方から、数機のGMコマンドが高速で戦場に突っ込んで来た。
肩やシールドに存在する、数多くの撃墜マークが
そのパイロット達の歴戦を物語っている。

彼らのうち、4機編隊の一部隊が正確な射撃でライフルの一斉射撃をすると、
一気に散開して、敵のMS集団を包囲する。
隊長機と思われるGMコマンドが、1機で敵の注意を引き付けると
列機が回り込んで上方からライフルを放つ。
正確無比な射撃が、敵機を破壊した。
さらに襲ってくる敵機を横旋回に引き込んでから後ろを取ると
再びライフルが閃光を放ち、敵機が炎に包まれる。

この小隊の後方からやってきたGMコマンドの小隊も
最初にやってきた小隊程では無いが、
練度が高く、次々と敵機を破壊する。


「なんや・・。あいつら・・。味方にもあんな上手い奴おったんか・・。」
彼らの戦闘を見ながら、思わず中澤がうめき声をあげた。

「よっしゃ!うちらも行くで!!」

保田のライフルが一閃する度に、敵機が破片を振りまいて爆発する。
矢口のサーベルが敵機を切断する。
安倍と飯田のペアも、上手く連携を取っ
て、敵機を追い詰め
1機づつ、確実に破壊していく。
中澤と後藤も、主に中澤が敵を引き付け、後藤がそれらを狙い打つ。
つい先日まで、ひよっこパイロットだった石川、吉澤、辻、加護も
今ではベテランパイロットのごとく、敵と渡り合っている。
いつしか、彼女達は、味方のベテランパイロット達と連携を取りつつ、
敵機を確実に仕留めて行った。

約10分後、敵の第一線の防御ラインに存在していた敵MS部隊は
その大半が撃破されていた。
おそらく半数以上が彼女達、及び、
あのベテランパイロット軍団の手によって撃墜されたであろう。

流石の中澤たちでも、これだけ多くの敵MSを相手にするのは厳しかった。
しかしながら、あの味方ベテランパイロット達のお陰で
彼女達の負担は、かなり軽減することが出来た。

結局彼女達は、味方部隊と別れて、単独行動を取ることにした。
大量のGM集団と行動を共にするのも良いのだが、
それでは彼女達の腕前を発揮できない。
どちらかと言えば、混戦よりも、一撃離脱や
遊撃戦を展開した方が、彼女達も戦い易く、
なによりも、経験の少ない吉澤達をサポートできる。

「裕ちゃん。まだ怒ってるの?」
「ん?」
「さっきの事・・。」

中澤は不機嫌だった。
先ほどの味方ベテランパイロット達と、通信を開いた。
彼らは『自称:不死身の第4小隊』と名乗っており、
確かに腕前は良いのだが、一人だけ女ったらしのパイロットがいたのだ。
後藤や安倍達に「デートしましょう」と執拗に誘ってきた。
それだけだったら良しとしよう。
しかしながら、よりにもよって中澤に「年増には興味ない」と言い切ったのだ。
後藤が止めなかったらば、おそらく中澤のライフルで
彼は蜂の巣になっていたであろう。

それでも彼らの隊長である『バニング中尉』なる人物は
非常に紳士的であったため、中澤は仕方なく彼を許すことにした。
もちろん『女ったらし』の彼は、中澤の階級を知らなかったため、
後ほど知って、平身低頭であったが。
しかし、後から来た味方パイロットの『カレント中尉』と名乗った人は 紳士的な彼を『すけべジジイ』と言っていたが。
「何に怒ってるの?」
再び後藤が問いただす。
「別に怒っとらんよ。」
「年増って言われたから?」
「ちゃうわ!」
未だもって不機嫌な中澤。
彼女達から、さほど離れていない宙域でビームやミサイルが飛び交っているのだが、
中澤はそんなこと気にも止めていないらしい。
「わかった〜!あたしがデートに誘われたから妬いてるんだぁ!」
「・・・。」
「図星だぁ〜!」
「うっさい・・。」

「あのさぁ〜・・。二人の仲が良いのは認めるけど、ここ、戦場なんだけど・・。」
安倍の指摘は的確だった。

敵は幾重もの防御陣をMS部隊で作り上げている。
中澤達は、そのすべてと戦うことはせず、
味方の戦況が不利な時は参戦し、
味方が優勢ならば、あえて突入せずに進むこととした。

敵の作戦としては、防御陣で連邦軍のMS部隊を消耗させ、
ソロモン要塞まで引きずり込み、味方の増援等により
一気に殲滅するつもりなのであろう。
それにしてもと、中澤は思う
。 攻者3倍の法則と言う物がある。
敵の陣地や基地を攻める時、攻める側は
防御側の3倍の兵力を用意しなければならないと言う法則だ。
にもかかわらず、味方の兵力は敵の3倍あるとは言い難い。
ルナツー基地を出航する時の艦艇数は、
現在ソロモンを攻略している兵力の倍ほどあった筈なのだが。

中澤が以前に保田が感じたものと同様の疑問を感じた時だった。

「あ!あれ!なんだべさぁ〜!!」
安倍の絶叫が中澤の鼓膜を刺激した。

モニターが焼付きそうな程の強烈な閃光。
それは太陽がソロモンに投げつけられたような光と熱。

「ソロモンが・・・、焼けてる・・。」
矢口が呆然として唸る。 「これが・・。連邦の作戦だったの・・?」
保田が納得いったように頷く。
「こ、こんなの見たことある・・?」
「無いわ・・。」
後藤が驚いて中澤に話し掛ける。
「どうやって焼いてるの・・・?」
「しらん・・。うちは魚しか焼けん・・。」

付近ではすべてのMSが動揺しているのか、
明らかに動きが鈍っている。
どうやらこの作戦を知らなかったのは中澤達だけではなかったらしい。
それは敵と同等か、むしろ敵以上に味方のMS部隊が動揺していることからも伺える。
「と、とにかく、ソロモンに行くで・・。」
『敵を騙すには、まず味方からってことかい・・。』
命令を出しながら、中澤は胸がムカムカするような感覚を覚えていた。




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