第22話


「何や?あれ?」
突入し始めたところで中澤は気づいた。敵の増援部隊の先頭にある青いMS。
これまでに見たことの無い新型である。
犬のような頭部。アフリカの原住民が持つようなシールド。
そして、その動きは、とてつもなく素早かった。

そのMSが持つ、細長いビームライフルから閃光がほとばしると、
あっさりとGMが破壊される。
そのままの勢いでそのMSは突入すると、背中に装備している
薙刀状のビームサーベルを掴み、GMをことごとく粉砕する。

「新型!?」
安倍も敵のMSを確認したのか、大声をあげる。
「早い!!」
彼女達は、一瞬にして、その敵が尋常な敵ではないことを感じ取っていた。

「あれを・・、叩くで!!吉澤!石川!辻!加護!あんたらは援護や!行くで!」
「おっけー!」
「了解!」
中澤と後藤を先頭に、飯田と安倍、保田と矢口が続く。
その後ろから援護するために、吉澤達が続いた。

彼女達の突入を察知した敵部隊の一部が、
方向を変えて、彼女達に襲い掛かるべく向かってくる。
その編成は、主にリックドムを主体としていた。

「じゃまや!」
中澤が一言声を上げて、トリガーを押すと、
ライフルから放たれたビームが命中する。リックドムは四散した。
一方、保田も得意の射撃で、あっさりとザクを破壊する。

彼女達の腕前を前にして、中澤達を並みのパイロットではないと
把握した敵のMS部隊は一旦後退すると、編隊を組みなおす。

「この敵・・。やるべさ・・。」
指揮官の統率力がいいのか、パイロット達がベテランなのか
それともその両者なのか、敵の冷静な行動に安倍が舌を巻く。

編隊を組みなおした敵のMS部隊に、突如下方から閃光が走る。
一旦中澤達と離れた辻と加護が
スナイパーライフルを斉射したのだ。
敵の編隊に光が二つ輝く。

「うまいで!辻!加護!行くよ!」

思わぬ長距離から狙われた敵MS部隊は、動揺したのか、一旦編隊を解いた。
その瞬間を中澤は見逃さない。
各々ペアごとに散開して、1機づつ敵を葬る。
矢口の背後に1機のリックドムが迫る。
そのリックドムのパイロットは、矢口の機体を照準に捕らえて
ニヤリと笑っていたであろう。
そしてバズーカを放った。命中を確信して。
しかしながら、彼にとって信じられない出来事が起きた。
矢口のGMコマンドは、全く背後を見る事無く、弾丸を回避したのだ。

「あまいね〜。」
コクピットで矢口が笑う。

その直後、横合いから放たれたビームによって、リックドムは四散した。

「ナイス!圭ちゃん!」
「ま、楽勝だね。」
思い通りのコンビネーションで敵を打ち落とし、ハイテンションな矢口に対して
相も変わらず冷静な口調な保田。

中澤達が援軍として突入したために、一旦は混乱が収まりそうになったが
彼女達に追従してきた多数のGMが、この戦線に加わってしまったために
混戦が、さらなる混戦を招いてしまった。
彼女達が奮闘しても、なかなか形勢が両軍共に有利にならない。
そのなかで、ジオンの青い新型MSは、混戦を利用するかのように
ビームナギナタを用いて、次々とGMを破壊している。

「あれを落さんと話にならんな・・。」
敵の隊長機を睨んだ中澤が呟く。

彼女達も、やっと襲い掛かってきた敵MSを駆逐したばかりだ。
向かう先には、混戦中のMS隊。そして青い新型MS。
「なっち。あの新型知っとる?」
中澤が情報に関して素早い安倍に訪ねた。

「う〜ん。なっちも知らない。ちょっと待って。」
安倍はコクピットの中でパネルを操ると、
情報端末から、敵MSの情報を引き出そうとする。
「MS-14ゲルググ・・?だって・・。新型の試作型らしいよ。」
彼女のモニターに、諜報部から寄せられた情報が表示される。
「強そうだべ・・。性能良いらしべさ・・。」
「そっか。とにかくあれを落す!行くで!」

モニターに表示される照準が、敵の新型MSを捕らえると
操縦桿のトリガーを引く。

まず真っ先に射撃をしたのは保田だった。
この中隊のメンバーの中では、おそらく彼女が
一番射撃の腕前が良かったからだ。
この時、保田はコクピットの中でニヤけていた。
自分でも射撃には自信がある。
その保田が、十分に自身を持ってトリガーを押し込んだ。

「えっ!?」
彼女が放ったビームは、あっさりとかわされた。

以前彼女は中澤に言われたことがある。
『正確すぎる射撃は、かえって避け易いで。』

「ちっ!!」 保田は舌打ちする。

「圭坊!この距離じゃ当たらへんよ!!あんたの腕前でもね!」
「圭ちゃん・・。突っ込もうよ。」
矢口が唸る。

「あたしの射撃が、こうもあっさり避けられるとはね・・。」
保田は自分自身を嘲笑していた。
すこしばかり自信過剰に陥っていたのかもしれない。
「まあ・・、いいか。行くよ!矢口!」
「おう!」

「なっちと圭織は右から!矢口と圭坊は左から!
 うちらは上から!行くで!!!」
中澤は、怒鳴り声を上げると、
後藤を率いて、一気に機体を上昇させる。
それに伴って、安倍たちは右に、
矢口たちは左に回りこむために、それぞれ操縦桿と
両足を使ってペダルを踏み込む。

彼女達の接近に気づいた、青いゲルググが、
彼女達の方を振り向き、シールドを身構える。

「まずは、なっちが行くべさ!!」
強烈なGが彼女の体を襲う。
それでも、彼女は思い切ってMSを突っ込ませると、
トリガーを押し込み、ライフルを3発連射させる。
しかし、あっさりと避けられた。
「な・・!!」

一瞬の隙を突いたつもりで、飯田がゲルググに向かって
ライフルを放つが、これもいとも簡単にかわされる。
「えっ!?」

「だめだね・・。あたしがいくよ!」
保田は、一旦敵に向かって突っ込んませた自分の機体を
途中で横にずらして敵の目を欺くと、再びライフルを放つ。
「あたしの射撃が、二度も避けられた?!」

保田の射撃を避けた一瞬を矢口は見逃さなかった。
「もらい〜!」
彼女のすばしっこさが機体に乗り移ったかのように、
素早い動きでゲルググに接近すると、
操縦桿のトリガーの横にあるサーベル用のボタンを押す。
すると彼女の機体は、腰の部分からサーベルを抜き取り、
ゲルググに切りかかった。この間、わずか1秒に満たない。
並みのパイロットならば、確実に切られていたであろう。
しかし、奴は違った。

「えっ!?!」
矢口のサーベルは、ゲルググの薙刀にあっさりと跳ね返されていた。
しかも、ゲルググは矢口のサーベルを受けた刃とは反対側の刃で、
下側から切りつける。
「きゃぁ!!」
悲鳴を上げた矢口だが、一瞬の判断で、シールドで受ける。
シールドが真っ二つに切断される。

「うわああ!!」
正直、矢口にとってこれほど『ヤバイ』と思ったのは初めてだった。
初めての実戦でもこれほど危険な状態に陥ったことは無い。
MSに乗り始めてから、彼女のセンスなのか、得意の格闘戦で
数多くの敵機を落してきた。
しかしこの時は違った。

「やばい!!」
シールドが無くなった彼女は無防備に近い。
その彼女をゲルググのビームナギナタが襲い掛かる。
一瞬、彼女は目をつぶった。
おそらくやられるだろうと思いつつ。
しかしながら、ゲルググのナギナタは、襲ってこなかった。

「圭ちゃん!!」
保田のビームサーベルがゲルググのナギナタを防いでいた。
「何の為のペアだと思ってるの?」 「・・・。ありがと・・。」

さすがに彼女達ベテランパイロット多数を一度に相手をするのは
分が悪いと踏んだのだろうか、一旦後退するゲルググ。

「ふ〜・・・。」
彼女のため息は心の底から出た物だったであろう。

「やる・・。この間の赤い奴以上かもしれん・・。」
中澤は呟きつつも、体も心も戦闘状態に入る。
一旦後退した隙を突いて、中澤がライフルを連射しながら突っ込む。
彼女も、保田ほどではないが、一般的に見て
射撃の腕前は他の通常のパイロットとは比較にならない。
それでも一発も当たらない。
「くそっ!!」
舌打ちをしながらゲルググの脇をすり抜ける形で
一撃離脱をかける。
もちろんのこと、中澤に敵の注意が集中すれば
後から続く後藤が敵をしとめる。
彼女達の抜群のコンビネーション。
の、はずだった。

しかし、ゲルググは彼女達の動きを読んでいたかのように
中澤の後に続いてきた後藤に襲い掛かる。
「ごっちん!!」
「きゃあ!!」
後藤は襲ってきたビームナギナタを寸でのところで回避した。
しかしながら敵の攻撃は続く。
必死に操縦桿を操り、敵の攻撃を避けつつ
相手の隙を狙って、攻撃を繰り出す。

一瞬の隙が現れたのは、後藤のほうだった。
「あっ!!!」
後藤が気づいた時には遅かった。
彼女のコクピットの目の前に、細長いゲルググのビームライフルが迫る。
「ごっちん!!!」
中澤が悲鳴を上げた。

『やばいよ!!』
後藤がそう思った瞬間だった。
後藤の体に電流のような衝撃が走る。
頭の中で、何かが弾けたような音。
頭脳が反応するよりも早く、体の方が反応した。
自然と彼女の左腕は操縦桿を引き、そして
足がペダルを踏んでいる。彼女の意思に関係なく。

0.5秒と経たずに、ビームが後藤の機体の横を通過する。
『避けれた・・?なんで・・?』
「ごっちん!うまい!!」
中澤の声と共に、彼女が放ったビームが
正確に後藤のGMコマンドとゲルググの間を通過する。

命中すると信じていた攻撃を避けられたためか、
明らかにゲルググは動揺している。
この場の不利を悟ったのか、ゲルググは後退した。
「あっ!!待てや!!」
青いゲルググが率いていた部隊は撤退した。
それも見事な引き方で。

「くそっ・・・。」
コクピットの中で、中澤は悪態をつく。
正直、彼女達が寄って集って倒せなかった敵は存在しなかった。
唯一、赤い彗星を除いて。
しかしながら、彼女達の集中的な波状攻撃を
いとも簡単にかわし、それだけではなく
味方のGM部隊を散々打ちのめした。
この戦域で撃墜されたGM部隊の半数は
あの青いゲルググの手によるものであったろう。
「ショックやわ・・。まるで悪夢やな・・。ソロモンの・・悪夢・・。」

しかし、彼女達にのんびりとショックを受けている暇は無い。
ゲルググ率いる強力な部隊を撤退に追い込んだとは言え
まだまだ敵は多い。
しかも味方のGM部隊は劣勢だ。
「・・・。行くで!」

中澤は、第一線を突破するためにも、一時部隊の集結を図るべく、
別行動を取っている石川達に連絡を入れた。




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