第13話


先頭の赤いMS-06R-2ザクUを中心にして、20機ほどのMS-06R-1AザクUを率いて
艦隊の上方より一気に襲い掛かって来た。
緒戦で予想外に2機を落とされたものの、さほど動揺することなく突っ込んでくる。

先頭の赤いMS−06R−2ザクUがマシンガンを放つと、
サラミスから発進したばかりと思われるGMの胴体に火花が散る。
正確に1秒後、そのGMは大きな閃光を伴って爆発した。

「やる・・!!!」
中澤の勘が、『強敵』との警告を上げる。
「いくで!!」
中澤は、吉澤・石川・辻・加護の4人に援護を任せると
自分を含めて安倍たち合計6機で敵に突っ込んでいく。

まず安倍が敵の1機に照準を定めるとライフルを放った。
かなりの距離があり、また、敵のスピードが速いにもかかわらず
安倍の射撃は正確を極めた。
第一射撃でザクUのバックパックを打ち抜く。
さらに第二射撃でもう1機のザクUを破壊した。
「なっち絶好調やね。」
「えへん!だべ!」
「圭織も負けられない!」
飯田が操縦桿のトリガーを引く度にザクUが破壊される。

保田と矢口が編隊から離れると、最大速度で
一気に敵の後方に回り込んで背後からライフルを放つ。
かつては『圭坊』と恐れられた彼女の腕前は尋常ではなかった。
最大速度であるにもかかわらず、正確無比な射撃。
1機、また1機と打ち落とす。
一方の矢口は射撃だけではなく、敵に近寄ると
腰の後ろにあるサーベルを抜き放ちザクUの胴体を真っ二つにする。
敵のパイロットも練度が高いベテラン達のはずだが、
敵にとっては不運なことに、彼女達とはレベルが違いすぎた。

「みんなすごい・・!」
「やろ?いくで!ごっちん!」
「う、うん!」
中澤はバーニアを吹かすと、自分のGMコマンドを故意に敵の部隊の前に出した。
ザクUはマシンガンを放つが、中澤はいとも簡単にかわす。
そのうち苛立ってきたのか、1小隊が中澤を追い始めた。
あっさりと敵の一部隊を引き付けた中澤が
自分の機体を翻すと、ライフルを放つ。
自分が敵を追いまわしていると油断していた敵は
完全に逆撃を食らった形となった。
1機のザクUが頭部を破壊されると、
列機に動揺が広がる。それを後藤は逃さなかった。
1機づつ後藤は撃ち落とす。

「き、来たのれす!!」
「わ、わ、わかっとるわ!」
「吉澤、石川、辻、加護!そっち行ったで!!」
中澤たちの練度が高くても、数が多いために撃ち漏らしが出ている。
その部隊が吉澤達に向かっていた。

「おちるのれす!!!」
辻がスナイパーライフルを発射する。
加護も負けずと連射している。
しかしながらなかなか命中しない。
やっとのことで1機を辻が落とすと、すでに5・6機の敵が目の前に迫っていた。
「きゃああああああああああ!!来ないでぇ〜〜!!!」
石川が鼓膜が破れそうなほどに甲高い声を上げると
操縦桿のトリガーを連打した。

「あれ?命中した・・。」
何度目かの石川の射撃が敵を捕らえ、
大きな閃光と共に一機のザクUが爆発する。
「梨華ちゃん、やるね・・。」

石川の思わぬ戦果に吉澤がライバル心を燃やし始めている。
『梨華ちゃんには負けられないからね・・。』
吉澤は、いつの日か二人がした勝負を思い出した。
あの勝負は偶然の産物がかななったとは言え
まがりなりにも吉澤が勝利している。その石川に負けるわけにはいかない。

「このぉ〜〜!!!」
吉澤の男前ぶりが発揮されたのはこれが最初だったであろう。
「ののちゃん!あいぼん!援護頼むよ!!」
吉澤は辻と加護に叫ぶと、一気に敵の編隊に向かって突撃した。

「待ってよ!よっすぃ〜!一人じゃ危ないよ!」
石川は、無謀にも一人で突撃し始めた吉澤を援護すべく
吉澤の後について自分も突っ込んでいく。

「このヤロ〜!!!」
異常なまでに吉澤は気合が入っている。
普段とは考えられないほど吉澤の行動は素早かった。
ライバルたる石川の目の前で正確な射撃を披露する。

「よっすぃ〜・・。かっこいい・・♪よぉ〜し!!」
石川も負けじと吉澤についていく。

吉澤は波に乗っている状態だった。
地球で一応戦闘は経験しているが、これが実質のところ初陣に等しい。
地上の戦闘では死にそうになり、危ないところで矢口に救われた。
そんな自分も激しい訓練や、教育係の矢口に教わったことで
実力以上の自信過剰になっていたのかもしれない。
しかも、敵機を撃墜したのだ。

『梨華ちゃんとの、あの決着が役に立ったかな?』
吉澤はそう思いつつ、操縦桿を操る。
敵のMSはザクの改良型であり、しかもその改良型に乗っているのは、
情報によるとパイロットのほとんどがベテランクラスといわれている。
そのMS部隊と自分達が互角に戦っているのだ。
それは吉澤に、さらなる自信過剰を与える。

吉澤は後ろに着いて来る石川のことなど考えずに敵に迫った。
至近距離でザクUがマシンガンを放ってくるが、
彼女は左の操縦桿を素早く操り、GMコマンドの左腕に装備している
シールドを持ち上げ、敵弾を跳ね返す。
一瞬の後、天性の勘なのか、攻撃後の敵の隙を見て取った彼女は
ビームライフルを発射した。
多数の弾丸を命中させて敵を破壊するマシンガンとは違い、
ビームライフルは一発の火力が大きい。
その威力は一撃でザクUの装甲板を打ち抜く。
一つ大きな火の玉が膨れ上がると、ザクUが爆発した。

「よぉ〜し!2機目だぁ〜!あたしカッケー!!」
吉澤はすっかり自分がペテランパイロットになったような気分になっている。
自分にかなう敵はいない。そんな気がした。
その自信は彼女に後方確認を忘れさせていた。

「よっすぃ〜!!!後ろ!!!危ない!!!」
そんな吉澤の耳に、甲高い声が響いた。
「え!?」
吉澤のGMコマンドが振り向く。
彼女の目に飛び込んできたのは、ヒートホークを振り上げ
いままさに自分の機体を切り刻もうとするザクUの姿だった。

「!!!!!!!!!」
吉澤は咄嗟にシールドでカバーする。
大きな衝撃が彼女を襲った。

「きゃぁぁぁ〜〜!!!!」
ヒートホークは、咄嗟に機体をかばったシールドごと
左腕を肘から切断していた。

もし、石川の警告が、あと1秒遅かったら
おそらく彼女はここで戦死していただろう。
「まだ・・・!」
彼女のGMコマンドは左腕を失ったとはいえ、
まだビームライフルを持っている右腕が残っている。
吉澤は敵に標準を定めようとライフルを振り上げた。
しかしながら、なんとも距離が近すぎた。
ザクUの左腕が、吉澤の機体の右腕をビームライフルごと押さえ込む。
「しまった・・・!!!」

この時、吉澤は思い出した。 自分がまだまだ新米のパイロットであることを。
先ほど敵機を撃墜したのは、明らかに幸運であった。
しかし、彼女はそれが自分の実力であると勘違いした。
中澤がかつて言った。
初陣で自信過剰になり、危うく命を落としかけただけでなく
味方に多大な犠牲を強いてしまったことを。

「あ・・・、あたし死ぬんだ・・。」
ザクUがゆっくりとヒートホークを振り上げている。
その目標は彼女が搭乗しているGMコマンドの
コックピットであることは明白だった。
一瞬にしてそのことを悟ると、彼女は震えが止まらなくなった。

『まだ何もしてないよ・・。あたし・・。』
厳しかった士官学校。
さらに厳しかった中澤たちに施された訓練。
恋もしてない。
吉澤のその風貌から、男にだけでなく女にもモテた。
言い寄ってくる人はいっぱいいた。
しかし、彼女は興味を示さなかった。
ただパイロットを目指し、エースパイロットになる。
それが彼女の夢だった。
思い出が走馬灯のように過ぎていく。
『ああ・・・。あたし死ぬ・・・。みんな・・。』

ザクUのヒートホークが振り下げられた。

「・・・・。」
吉澤は目をつぶって死を受け入れようとしていた。
正直怖かった。震えが止まらなかった。

しかし、いつになってもザクUのヒートホークは彼女を直撃しない。
「・・・・?」
吉澤は目を開けた。
彼女の目に映っていたのは、右腕ごとヒートホークを失い、
酷く狼狽しているザクUだった。
「あ・・?あれ・・・?」

明るいビームが一閃する。
胴体にビームの直撃を受けたザクUが衝撃で吹き飛んだ。
ビームが来た方向では、石川のGMコマンドがビームライフルを構えている。

「よっすぃ〜〜!!!大丈夫?!!?」
「梨華ちゃん・・・。」

「よっすぃ〜に当たったらどうしようかと思った・・。
 でも、このままじゃよっすぃ〜が死んじゃうから・・。
 えっく・・えっく・・。」
石川が嗚咽している。
本来なら死にそうになった吉澤が泣くはずなのだが、
吉澤を助けた石川が泣いていた。

「ありがとう・・。梨華ちゃん・・。ありがとう・・。
 だから、泣かないで・・。あたし大丈夫だから。」
「うん!」
石川は顔をくしゃくしゃにしながら頷いた。

『助かった・・。また助けられちゃった・・。』
2回目の実戦。
また死にそうになった。 そしてまた助けられた。しかも今回は石川に・・・。

「ありがとう。梨華ちゃん。」
そう言ってから吉澤は気づいた。
彼女の股間の部分が生ぬるく湿っているのに。
『あ・・、あたし・・。もしかして漏らした?』
吉澤は顔を真っ赤にして、一人コックピットの中で俯いた。
「あたし・・、かっこわるい・・。」


その頃、敵の艦隊本体も、ゼティマの艦隊に迫っている。

「目標、右舷のチベ級重巡!」
寺田の命令の元、ゼティマの上部の1番・2番砲塔、下部の砲塔、
それに右舷の砲塔が狙いを定めるべく旋回しばじめる。

「照準オーケーです!!」
前田の返事が聞こえるや否や、寺田の命令が艦橋に響き渡る。
「撃てぇ〜〜!!!!」

艦全体に振動を残して、各砲塔から高出力のビームがほとばしる。
真空で無音の宇宙であるが、もし音が聞こえるならば
相当な轟音が聞こえたであろう。

白光の軌跡を引きずりながら敵艦に向かって直進したビームの一弾が
チベの後部にある砲塔を直撃した。
轟音と共に、強烈な振動がチベを襲い無数の鉄片をばら撒く。
さらにもう一弾がチベを直撃する。
しかしながら依然として、チベは健在であり、
前方の主砲を回転させ、こちらに照準を合わせようとしている。

「第二射、まだか!?」
「まもなく。」
再び照準を合わせるべく、キリキリと主砲が微調整をする。
「敵艦発砲!」

チベの射撃はゼティマを狙った物ではなかったが、
そのメガ粒子砲は、ゼティマの隣にいた
サラミス級巡洋艦『エイベックス』に命中した。
二つ、三つと閃光が上がると、大きな光を残してエイベックスが砕け散る。
「エイベックス、爆沈しました・・。」
いささか動揺がかった前田の声が冷静に事実を伝える。
「わかっとるわ・・。照準急げや!」
『エイベックスの艦長、気に入らんかったんや・・。ざまあみさらせ・・。』
不謹慎にも寺田が心の中で呟いた。
「照準完了!」
再び報告が入ると、寺田は命令する。
「撃て!!」

ゼティマの砲塔から大きな光が放たれると、
光の塊がチベに向かって誤ることなく直進していく。
今度の射撃は、完璧にチベを捕らえた。
最初に命中した一弾が艦橋を直撃し、
そこにいた面々を跡形も無く吹き飛ばす。
さらにもう一弾が艦首のミサイル発射管に飛び込み爆発した。
舞い上がった炎が、すでに装填されていたミサイルの信管を舐め、くすぐる。
突如小太陽が投げつけられたような大きな光が
チベの艦上で上がると、一気に爆発した。

「チベ撃沈!」
「よっしゃ!!」
寺田がニヤリと笑いながら叫んだ。





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