第12話


中澤たちが乗り込んだ改マゼラン級の戦艦は
両舷にある艦橋を撤廃して、そこにMS格納庫とカタパルトを
備えてある特殊なタイプのマゼランだった。
さらに下部を改造し、ここもMS格納庫を設けてある。
都合3つのカタパルトがあり、同時に3機のMSを射出できる。

「みんな、大丈夫やな〜?」
中澤は自分のMSをカタパルトに乗せると、通信を開いて
全員に問い掛けた。

宇宙への出撃を機会に中澤は自分の部隊の編成をしなおした。
中澤は後藤とペアを組み、安倍と飯田、保田と矢口で組ませる。
中距離支援のスナイパーの辻・加護組を
石川・吉澤のペアが援護する。
そのため、今、中澤の後ろには後藤のGMコマンドが待機していた。

「いいよ〜〜。」
「OK!」
右舷と左舷のMSカタパルトに乗っている
安倍や保田のGMコマンドから連絡が入った。

「じゃあ行くで。みっちゃんも後から来てや。」
「おっけ〜!」
平家の小気味いい返事を聞くと、中澤は両足のペダルを踏んでバーニアを吹かす。
その直後、カタパルトが中澤を射出した。

強烈なGが中澤の体を締め付ける。
カタパルトは瞬時にMSに戦闘速度を与えるため、
パイロットに掛かるGは、かなりの物だ。
中澤が後方を確認するために後部モニターを見ると、
続々と仲間達のMSがゼティマから射出されてくるのが見て取れる。


『はぁ〜・・。宇宙か・・。』
後藤は自分のMSの中で少し緊張しているのか、
自然とレバーを握る手に力が入る。
前を見ると、すでに射出された中澤のMSが
ドンドン小さくなっていくのが見て取れた。
緊張しているはずなのだが、何故か後藤は宇宙がとても懐かしい感じがした。
彼女は宇宙の経験が多くない。にもかかわらず自分の故郷に来たような感じ。
「はぁ〜・・。」
後藤はため息を一つつく。
「進路クリアー!」
オペレーターからの報告が入ると、
後藤はいつに無く真面目な表情をして言った。
「後藤行きます!」
直後、後藤にすさまじいGが掛かった。

「はぁ・・。」
後藤や安倍達が、次々と射出されていくのを見て
吉澤がため息をついた。

自分の前には辻や加護も射出されていく。
「きゃああああああ!!!」
一際大きな甲高い悲鳴を上げたのはおそらく石川だろう。
「すごいのれす〜〜!!!」
「ひょえええええ〜!」
辻や加護も悲鳴を上げながら射出されている。

「カタパルト初めてデスヨネ?」
ふと吉澤は話し掛けられた。
「ダニエルです♪」
後ろにいたダニエルが
自身無さそうにしている吉澤を見て声をかけた。
「そうなんですよ・・。」
「アハハハ!大丈夫デ〜ス!take it easyデ〜ス!!」
豊満なボディーに似合ったインパクトのある声で彼女が怒鳴る。

「あ、ありがとうございます・・。」
実際のところ、吉澤は彼女とあまり話をしたことが無い。
もっとも最近仲間になったばかりであるが、
そんな彼女が自分を心配して、元気付けてくれたのは正直嬉しかった。

「それじゃあ、行きます。」
吉澤は、モニターの中で微笑んでいるダニエルに向かって行った。
「OK!OK!」

「吉澤行きます!!」

「みんな〜。大丈夫か〜?」

「きゃああああ〜〜!!!」
「くるくる回るのれす〜!!」
石川や辻が悲鳴を上げる。
いくらシュミレーションで訓練していたとは言っても
実際に宇宙に出るのとは天と地程も違う。

「みんな大丈夫だよ〜。あまり力まないでね。」
「下手にバーニア吹かすと返って大変だべ。
 自然に軽く吹かせば大丈夫だべ。」
宇宙の経験が少ない者に対して飯田や安倍がアドバイスする。

「ん〜・・・。」
平家が指揮しているメロン隊やココナッツ隊は
少々だが宇宙の経験があるために、意外と健闘している。
しかしながら吉澤達の未経験者はかなり苦戦中だ。

「きゃあああああ〜〜!!!!!」
「石川!」
見当違いの方向に向かって進んでいく石川を保田が追いかけた。
「大丈夫?」
「は、はひ・・・。」
「ほら。シュミレーションでやった事忘れたの?」
「い・・、いえ。」
「同じつもりでやってみな。」
「は、はい!」
保田のアドバイスの元、次第に勘を取り戻してきたようだ。

「ええか〜。あれ狙ってみ。」
中澤は辻と加護を呼び寄せ、狙撃の練習をさせていた。
中澤が指差したのは、かつてムサイ級巡洋艦だっとと思われる残骸。
「まずは辻からな。」
「はい。」
辻がおぼつかない操作で狙いを定める。
距離は約500メートルは離れているかもしれないが、
狙撃型であるスナイパーUならば充分射程距離内だ。
辻がレバーに付いているカバー型の安全装置を親指で弾いて外す。
「撃ちます。」
辻はわざわざ報告してからボタンを押した。
すると、軽い衝撃と共に辻のGMスナイパーUの長いライフルの先から
明るい閃光が放たれながらビームがほとばしった。

ビームは真っ直ぐと進むと、漆黒の闇に吸い込まれていく。
完全に外れ。標的との距離は50メートル以上離れている。
「あれ・・?」

「・・。じゃあ次は加護。」
「はい。」
加護も辻と同様の手順を踏んでライフルを撃った。
これも外れる。

「なんで当たらんか分かるか?」
「わかりません・・・。」
「わからないのれす・・。」

「あんたらちゃんとセッティングしたんかいな?」
「あっ!!!」
二人が素っ頓狂な声を上げる。
彼女達は忘れていたのだ。
安全装置を外した後に、無反動装置を入れることを。
宇宙はちょっとした反動で物が動いてしまう。
無重力だからだ。
ライフルを放てば、当然の事、それなりの反動がかかる。
にもかかわらず、彼女達はそのことを忘れていた。
地上では重力もあり、また両足がしっかりと支えているため
反動にはあまりこだわる必要が無い。
ところがここは宇宙。しかも狙撃用の高出力のライフルを使っている。

「すんまへん・・。」
「ごめんなさい。」
二人は素直に謝った。
そんな二人に対して、中澤は微笑みながら言った。
「もう忘れんようにな。」

一方、吉澤は矢口相手に格闘戦の訓練をしている。
思ったより、吉澤は宇宙に関してセンスがあるようだ。
「いいよ〜。よっすぃ〜。」
「あ、ありがとうございます。」
吉澤はヘルメットのバイザーを上げると汗をぬぐった。
無重力のため、汗が滴り落ちることは無い。
そのため、ヘルメットの中で水滴が中を舞うと
意外と邪魔になるからだ。
「ふぅ〜。」
「よっすぃ〜、センスいいね。じゃあ次は射撃いって見ようか?」
「はい・・。」

吉澤が周りを見渡すと、
平家が率いる部隊が編隊を組んで飛び回っている。
他方、安倍と飯田は自由自在に宇宙を飛び回っていた。
完全にドライブしているといった状態。
『みんなうまいな・・。』

そんな時、吉澤のGMコマンドの警報が鳴り響いた。

「艦長!!熱源反応!敵襲と思われます!!」
ゼティマのオペレーターである前田有紀少尉が叫び声を上げた。
「なんやて!?」
MSデッキから戸田少尉を伴って艦橋に入ってきたばかりなのだが、
寺田はすぐさま艦長用のシートに飛び乗るように座り込むと、
周囲の人間に指示を与える。
「敵の種類、及び数、距離方位を報告しろ!」
「はい!敵はザンジバル級重巡洋艦1、チベ級重巡洋艦1、ムサイ級軽巡洋艦5!
 距離は約1万!方位は水平方向2時!」
てきぱきと前田が報告する。
ミノフスキー粒子が濃いためにレーダーが利かなく
熱源だけで反応をキャッチしなければならない。
「くそっ!こんな時に!!中澤たちに連絡!」

現在宇宙に上がったばかりの連邦軍艦艇は集結中である。
ゼティマを中心に数々の艦艇が集まりつつあるが
依然としてばらばらであり、陣形など組める状態ではない。
現在戦闘準備が可能な周囲の艦艇は
ゼティマを始め、マゼラン級戦艦1とサラミス級巡洋艦4といった状態。
数の上では明らかに劣勢である。

「敵艦隊、MSを出撃させた模様!!」
「砲雷撃戦用意や!」
すでに味方艦艇が敵方向に向かって砲塔を旋回させている。

「みんな!集合や!」
中澤を中心にして、平家や安倍をはじめ、
次々メンバー達のMSが集合してくる。

「初めての宇宙でいきなりの実戦ですか・・。」
吉澤が抗議の声を上げる。
彼女も分かっている。抗議したところで敵が帰ってくれるわけではない。
しかしながら、文句も言いたくなる。
そんな吉澤の感情を理解してか、
「仕方ないべさ。」
安倍が優しく答えてやる。

「まずは艦隊を守るのが最優先や。
 今後の作戦のために艦隊を減らすわけにはいかへん。
 みっちゃん達は艦隊を直援してや。
 うちらは間接で援護する。」
「わかった。」
平家が言葉少なく返事をする。
彼女も実戦経験は豊富だが、久しぶりの宇宙の実戦で緊張気味だ。
平家は、松浦やココナッツ隊とメロン隊を率いてゼティマの方向に身を翻した。

「うちらももう少し艦隊に近づくで。」
中澤たちのMS部隊は訓練をしている間に、すこしばかり艦隊と離れてしまっていた。
平家たちと上手く連携しなければならない。
その為にも、もう少し艦隊に近づく。
「行くで。」
中澤を先頭にして編隊を組んだ。

「有紀ちゃん!敵の数と種類を教えてや!」
「はい!敵はおよそ50機。機種はザクの改良型とドムだと思われます!」
「おっけ〜!」
オペレーターからの報告を受けると、
中澤はスナイパー部隊のココナッツ隊を艦隊の上方へ
それを支援するためにさらに上方にメロン隊を
そして遊撃として平家と松浦を配置した。
一方の中澤たちの部隊は、辻加護及び、石川と吉澤を平家たちの近くに配置、
中澤たちベテラン部隊を、中澤・後藤のペア、安倍・飯田のペア、
そして矢口と保田のペアで編成するとそれらを遊撃とすることにした。

「大丈夫かな・・。」
後藤が中澤に対して不安げな声を上げる。
「大丈夫や。うちがおる。」
「うん・・。」
付近を見渡すと、味方艦艇から次々とMSが出撃してくる。
その編成はいかにも雑多だ。
新型のGMコマンドやスナイパーはほとんど見受けられない。
大半が通常の量産型GMらしい。

中澤が正面を見た。
次第に光点が迫ってくるのが分かる。
「来るで・・・!!!早い!!!!」

中澤の目に飛び込んできたのは赤いMSだった。
「まっ!まさか赤い彗星!?!?」
以前ジャブローで赤いMSと戦ったことがあるが、
その速さは尋常ではない。
そのMSと同じ色のMSが、今接近してきている。

「辻!加護!!」
「はい!」
「はいれす!!!」
中澤の命令を受けて、辻と加護が狙撃ライフルを発射した。

敵のMS部隊に二つの閃光が開く。
「あ、あたった・・!」
「あたったれす!!!!!」

これを合図にしたかのように、MS戦が始まった。





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